「どうぞ」
「お邪魔、します…」

至って簡単な部屋。
ベッドと低いテーブルと、街が見える窓だけ。
本当にするだけの部屋だ。

「あんまりいいベッドじゃないんだけどね」
「寝れるだけありがたいです」
「お仲間さんたちが起きてきたら、起こしてあげる」

何から何まで、本当にありがたい。
へにょりと力なく笑うと、お姉さんも笑ってくれて、男だったら完全に彼女に惚れ込んでいそうだ。

「おやすみなさい」
「はい、…おやすみ、なさい」

ぱたんと扉が閉められた。
同時にベッドに倒れこんで、でも酒の所為で火照った体を纏うつなぎが邪魔で、重い手足を動かしてそれを脱ぐ。
つなぎの下に来ていた短パンとTシャツもいらない。
さらしとパンツだけで、真っ白なシーツに身体を沈める。それが冷たくて、気持ちがいい。

ふやふやとした思考のもと意識を飛ばそうとした瞬間、ばたん、と急に扉が開いた。

「…へ?」
「……何やってんだ、お前」

身体は上手く動いてくれないから顔だけそちらを向けると、いつもより少し不機嫌そうなキャプテンと、目があった。

どうして、ここにいるんだろう。
お姉さんたちに囲まれてたはずなのに。

「なんで、キャプテン…いるん、ですか…?」
「お前と一緒にいた女が俺に言ってきた」

あのお姉さんが、伝えたんだろうか。
一応、私が女だから。でもそんなところまで気を遣わなくても良かったのに、出来る女の人はさすがだ。

音を立てて近づいてくる彼に、私はやっぱり動くことが出来ない。
身体が重いのはもちろん、脳まできっと重くなってしまったんだ。

「きゃぷ、てん…?」
「……くそ、」

ベッドがぎしりと鳴る
目の前に、キャプテンが居る。
どうして?
疑問は浮かぶのに、それを問いたいのに、その口は塞がれた。

「ん…っ」

苦い。お酒の味。
彼の薄い唇だって熱いのに、私のそれを舐める舌はもっと熱くて、耐えられなくて唇を開いたら、それが私の舌を絡め取って、ぐちゃぐちゃと音が耳に響く。
上顎を擽られ、鼻から抜けるような声が出て、舌を吸われて、キャプテンの口の中に自分の舌が、なんて思ったら、ずくんと下腹部が熱くなった。

「……っは、へたくそ」
「…だって、したこと、ない」

荒く浅く呼吸を繰り返す私に比べて、彼は随分余裕そうだ。
当たり前だ、経験が違うんだから。
ぼーっと彼を見つめたままでいると、額にキャプテンの唇が落ちてくる。次は目元で、こめかみとか頬と、顔中いっぱいに。
手は私のさらしにかけられて、一生懸命崩れないよう毎朝結んだそれが簡単に解かれてしまった。
緩んで呼吸は少し楽にはなったけど、大して大きくもない胸なんて、彼の好みじゃないだろう。

「きゃぷてん」
「何だ」
「…むね、やです」

さらしの下に手を差し込まれて、大きい彼の手に余ってしまう。
むずむずするし、離してほしかった。

「何でだよ」
「…や、だから」
「我儘」
「ッ、だって、」

上にずれたさらし。晒された突起を彼は急に舐めてきて、びくりと腰が浮く。
逃げようと身体を捩っても、かり、と八重歯が付きたてられて、でもそう思ったら舐められて、自然に口から声が漏れる。

「っあ、ん、…ッ」
「嫌、じゃねぇだろ?」
「や、…っ、ぁ、ん、」

首を横に振ってるのに、キャプテンは納得してくれない。
そんなことをしてる間にも彼の指先は私の身体を滑っていった。二の腕、胸の下、脇腹、臍、太腿。
そこで気付く。それは全部、私が怪我した場所。傷跡。

「…ッ、やめて、」
「どうした」
「…綺麗じゃ、ない」

綺麗じゃない身体。傷だらけの身体。
ちぐはぐの、身体。
キャプテンの役に立てた証としてこの傷は嫌いじゃないけど、それでも、しっかりと確かめれられてしまうのは痛い。

じわじわと涙が浮かんで、懇願する。
彼は漸く手を止めてくれて、だけど私を睨みつけた。

「誰が、この傷を縫ったと思ってる」
「……きゃぷてん、です」
「そうだ、俺が、全部」
「……」
「俺の、痕だ」

そう言って、涙を吸われる。
彼は、どうしてそう、更に私を追い詰めるんだろう。
酒が抜けきらない脳髄は、本能を殺してくれない。

投げ出していた腕を持ち上げて、彼の首に回し、衝動的に唇を重ねた。彼が言う、へたくそなキスを繰り返して、どろどろに溶かされていく。
私を縫い合わせた彼の指先がどこに行こうと、私を昂ぶらせるだけだ。

「あ、ぁ、…ッ」
「濡れてる」
「いわないで、くださ…っ」

手で下着の上をぐっと押され、びりりと電気みたいに背筋を何かが走り喉元が反る。
布越しに何度かそこを行き来するだけで死んでしまいそうなくらい恥ずかしい声が出て、唇を噛もうとする度に彼がキスをしてきて、私が何かを勝手にすることを許してくれない。
濡れて擦れる感覚がもどかしい。今までこんなこと知らなかったのに、どんどんと欲が溢れてくる。
指先に擦りつけるみたいに腰を揺らすと、彼は一瞬驚いたようだった。でもそれもすぐにあのいつもの笑みに戻って、下着に手をかけられ、あっという間に脱がされる。

濡れたそこが外気に当たり腿を閉じようとしても脚を持たれて逆に開かされてしまった。
耳元に顔が近づいて、舌が耳を這う。直接届く水音。下を這う指はただそこをなぞっているだけなのに、その音も反対の方から聞こえてくる。

「ひ、ぁ…っや、あ…!」
「指、入れるからな」
「ん、ん…ッ」

彼の背中に回した手で、彼の服を掴む。
初めて何かを受け入れるそこは痛いような、気が、した。
中指か人差し指か、どこの指かわからないけど、中にゆっくり入りこんで、ゆっくり引き抜かれ、また差し込まれる。
それを繰り返されるうちに段々と変な感じは少なくなって、力が抜けたお陰で、その出し入れに痛みじゃない何かを拾い始めるようになった。

二本、三本、本数は増えていく。
多分、すごく、時間をかけて貰っているんだと思う。
痛みはもう全然なくなった。代わりに、すごく、物足りなくなってしまった。

初めてなのに、はしたないって、わかってる。
でも、好きなひとに、キャプテンに、それがたとえ酔ってるだけ、そこに丁度良く私がいたからだとしても、大事にしてもらえたから。
これが最初で最後かもって思ったら、理性なんて、いらないんだ。

「きゃぷてん、」

だけど、キャプテンを、困らせたらいけない。
私は、あくまで、クルーのひとりで、いなきゃいけない。

大丈夫、寝て、目が覚めたら、忘れますから。
すきだなんて、言わないから。
だから、お願い。


「…いれて、」


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