いいなぁ。
どうして私、男じゃないんだろう。

酒場というか、むしろ娼館に近いような場所で酒を煽りながら、そんなことを思う。
周りにいるのはクルーと、非の打ちようもないスタイルを持つ美人さんたち。
久々の上陸だし、みんなのテンションが上がるのは良くわかる。私は女だからよくわからないところはあるけど、溜まっちゃてるだろうし。

船の中で唯一女である私は、こういう時、疎外感を感じる。
いつもは男とか女とか関係なく重労働だって戦闘だって強いられている。
だけど、こういうことに関しては、やっぱりどうしようもない。

「お酒もうちょっと飲む?」
「あ、はい、お願いします」
「ふふ、とっておきの持ってきてあげるね」

一応私についてくれるお姉さん達もいて、楽しいには楽しい。普段男の人には出来ない会話だって出来るし、同意だってしてくれる。
でも、やっぱりちょっと、みんなみたいに、はしゃぐことも出来なくて。

「はいどうぞ」
「ありがとうございます」
「それ、ちょっと度数高いけど大丈夫?」
「んー…でもそこそこ強いつもりなんで」
「じゃあ気に入ってくれると思うな」

ふんわり、だけど色気のある笑い方は、私には一生身につけられないと思う。
こんなに美人で、胸もお尻も大きくて、でもウエストはきゅっとしてて、その上気遣いも出来て、性格もきっと悪くない。
私が敵うところは多分身体の傷の数くらいだろう。

「あ、美味しい」
「よかったぁ」

口に広がる、苦みよりも甘み。
船の上でも美味しいお酒は飲めるけど、こんな風なのは味わえるのは極稀だ。

「お姉さん」
「んー?」
「どうしたらそんな胸とか、大きくなるの」
「そうねー…どうしてかしら、生まれつき?」
「神様は不公平だと思うんですよねー…」
「ヘレンちゃんだって細いじゃない、あと綺麗に筋肉だってついてるし」
「もうほんと、男みたいなんですよ?この身体」
「そんなことないわよー」

訓練とかで勝手についていく筋肉は、戦闘ではすごく役立ってくれるし、ちょこまか動く私にとっては、一応さらしで抑えてはいるけど、そんなのが実は必要ない位大きくない胸は、邪魔にならない。
だったらいっそ男であれば、こんな風に思わないのに。
柔らかくないのが元からなら、柔らかくない身体に劣等感を抱くこともなかっただろうに。


「ヘレンー、飲んでるかー?」
「飲んでる飲んでる」
「ホントかよぉ」

もうだいぶ出来上がってるシャチがこっちに近づいてきて、どかりとお姉さんの隣に腰を下ろした。

「船長とペンギンにぜーんぶ取られちまった」
「だから私のお姉さんのところ来たの?」
「やだヘレンちゃん、恥ずかしいわ」
「っけ、お前の独り占めはさせねーかんな」

そう言ってやさぐれた彼はぐびぐびと持っていた酒を飲み干して、お姉さんにおかわりを要求する。
お姉さんはくすくすと笑いながらテーブルの上にあった私が飲んではいなかった違うボトルをコップに注いだ。

その間、私はシャチがさっきまでいた場所を見た。
そこには大勢のお姉さんたちに囲まれたペンギンとキャプテンが居る。
普段しっかりしてるペンギンもお酒が入って心なしか上機嫌そうにお姉さんと話していて、キャプテンに至ってはお姉さんを膝に乗せて、厭らしい手つきで腰を抱いていた。

…まあ、わかってたことだけどね。
キャプテンがモテるのはいつものことだし。

「ほんと、男だったら良かったのに」

男だったら、こんな気持ち、きっと持たなかった。いや、もしかしたら持っちゃったかもしれないけど、諦めはついたと思う。

「げ、やめろよ、ヘレンが男だったらもっと俺のとこに女回んなくなるだろ」
「シャチ、…それ言ってて悲しくない?」
「うるせ、お前だって男寄り付かねぇくせに」
「う、…うるさい、お姉さんがいるから別にいいし」
「ふふ、ありがと」
「あーあ、男だったらお姉さんお持ち帰り出来るのになー」
「俺がさせねーよ!」
「シャチに決められることじゃないもーん」

飲みやすい甘いお酒を飲みながら、さていつここを出ようか、そんなことを思った。


*****

―――ああ、どうしよう。
思ったより、酔ったかもしれない。

「ヘレンちゃん、平気?」
「んー…ちょっと飲みすぎたかも、しれないです」

どんちゃん騒ぎですでに何人もクルーはつぶれていて、一緒に飲んでたシャチもいつの間にか眠ってしまっていた。
店は貸切状態だし朝までそのままでも大丈夫だろうけど、私はずっとここに居るつもりはない。
何より、今はまだ酒を煽っているキャプテンが、お姉さんの誰かをお持ち帰りするところまでは見たくないのだ。

「船、戻ります…」

力がなかなか入らない脚を叱咤して立ち上がる。
くらりとしたが、歩けないこともないだろう。

「もしよかったら、上泊まってく?」
「……へ?」

店の二階、は多分そういう部屋になっているはずで、ここに見えないクルーの何人かはきっとその部屋にお持ち帰り、したんだと思う。

「私に割り当てられてる部屋があるから、大丈夫よ?」
「え、そんなの、悪いです」
「いいのよ、私も楽しかったし」
「…でも、お姉さんが、その……」

誰かを誘って、そういうことになったとき、その部屋に寝る私はとても邪魔だ。

「このひと見てるから、いいわ」

お姉さんは隣に寝るシャチの頭を綺麗な指ですっと撫でた。
…シャチ、絶対損してる。いつも潰れるまで飲むからこんなチャンスを逃すんだ。

「……じゃあ、お言葉に、甘えさせて、もらいます」
「ん、こっちよ」

部屋まで案内してくれるんだろう。
身のこなしさえ綺麗な彼女の後ろをさっきより余計回った酒にふらふらしなが、ついていく。
途中でキャプテンたちが座る席の近くを通ったが、彼は気付かなかった。


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