高く上げそうになった声を辛うじて抑えて、彼を睨みつける。

「悪くねぇな」

そう、あの意地の悪い笑みを零して言った彼の片手が私の両手を掴んで頭上で纏めた。
見た目は細いくせに無駄に力があるから身動きも取れやしない、…いや、そもそも、取ろうとも思えないのだけれど。

すっと近付いた顔が、唇じゃなくて耳に吸い付く。耳朶を食まれ、淵を舐めた舌先が中に入りぐちゅぐちゅとわざと音を立てて出入りする。

「…ッ、ぁ、ん、」

無理矢理唇を噛みしめた。こんなことで、あんな声を出すなんて、そんなの。
妙なプライドが捨てきれなくて、でも力の抜けてしまった身体は意志とは関係なく何かを望む。
彼はそんな私を良く知っていた。
耳から唇が離れると、それは私のそこに重なって、閉じた唇に強引に割って入る。ただそれだけ。舌を絡めることなくまた離れていってしまった。

「な、に…」
「そのまま、息してろ」

何でそんな、あたりまえなこと。
そう思った瞬間、手を押さえていた腕が移動して、ぐっと首に圧迫感を感じた。

「…っく、ぁ、」
「……は、締まるな」

たいして力はかかっていないはずなのに、息が苦しくて、背中が仰け反る。
殺されるはずはない、それはわかっているけど、不安感が余計に背筋を凍らせた。

「ん、あ、…ロー、…ッ」
「舌、出せ、…ヘレン」

名前を呼ぶのは卑怯だ。つい、従ってしまう。
びりびりする舌、それを、彼のそれが、今度はきちんと絡めとってくれる。
直接脳に響く。辛い。こんなの。酸素が足りなくて頭がぼーっとして、だけど、快感だけは拾って。いやだ。おかしくなる。でも許してくれない。
彼だから。ローだから。


どうしよう、死んでしまいそうだ。



ほどけないパズル


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