「あ、ッ、ぁ、んあ…っ」
「…ん、」

服をばさりと脱ぎ捨てた彼にしがみつく。
挿入された時は指とは比べ物にならないくらい激痛が走ったものの、きっとお酒とか色んなものが誤魔化してくれるんだろう、今はすっかり痛みでは治まらないものになってしまった。

自分から腰を揺らして、声を高く上げる。
こんな女は嫌いかもしれない、でも、止まってくれなくて。

「きゃぷ、て、…ッあ、」
「……ヘレン、名前、呼べ」
「な、まえ、…?」
「早く、しろ」
「んっ、あ、…っ、ろー、さん…!」
「…それで、いい」

一度だけ浅く重なった唇。
離れて、でもすごく近くで、目は合ったまま。
きっと私の顔は、涙とかそういうのでぐちゃぐちゃで、ただでさえ可愛くない顔が悲惨なことになってるだろう。

「あっ、ぁ、ろーさん…っ、そこ、ぁ、あ!」
「…ここ、か…?」
「ひぁッぅ、きもち、い…ッ」

びくびくと腰が浮いて、中のものを締め付ける。
そうすると彼は眉間に皺を寄せた。きつすぎるのか、狭すぎるのか、もしかしたら、ローさんも、感じてくれているのか。
そうだったら良いと、勝手に解釈して、嬌声を漏らす。

頭が段々ちかちかしてきて、下腹部から、何かが競りあがってくるような感じがした。
ぞわぞわと、快感が、あと少しで、何かが。

「ッや、ぁ、ろー、さ…ッ、だめ、だめ…ッ!」

必死に首を横に振って、彼の背中に爪を立てて、このわけのわからない過ぎる快楽をやり過ごせる術を探す。
なのにローさんは逆に奥までがんがん突いてきて、高まっていくばかりだ。

「やだ…ッあ、ぁ、ろーさん…っ!」
「…ッは、…イけよ、ヘレン」
「だ、め…ッあ、ぁ、や、きちゃ…ッひ、ん、あ、あぁ…!」
「く、ぁ…!」

全身が仰け反って、頭が真っ白になる。
その時にローさんが私の身体を抱きこんで、同時くらいに、中がさらに熱くなった。
びくん、と跳ねる度にそれが満たして、ローさんも、私の中に、出したってことだろう。

嬉しいと思う私は、やっぱり馬鹿だ。
そう思いながら意識は遠退き、かくりと、ベッドに沈んでいった。



それから、光が瞼に当たり、眩しくて目を開くと見えた窓の向こうはたった今朝日が昇ったようだった。
起き上がろうとして、身体が何かに縫いとめられていることに気付く。
腰に回った浅黒い、入れ墨の入った腕。後ろをそっと見ると、我らがキャプテンが、そこでぐっすり寝ていた。

ざっと、血の気が引く。

「…え、……あ、あ…!」

何て、ことを。
何てことを、私は、してしまったんだろう…!
いくら酔ってたからといって、後悔は、…してない、けど、でも、あんなこと。

そうだ、ここはやっぱり、忘れたふりをしよう。
そうするしか、ない。

「あ、あの、キャプ、テン…」
「……」
「キャプテン、起きて、くださ、い」
「………るせぇ」

ぎゅう、と、もっと抱き締める腕に力が込められて、心臓が酷く音を立てる。
口からそのまま飛び出そうだ。

「……ヘレン」
「は、はいっ」
「…なかったことに、すんなよ」
「……、う…」

どうして、ばれてしまうんだろうか。
素肌が触れ合ってることすら辛くなってきたのに、忘れようとすることもさせてくれないなんて。

「おい、また変な方向に考えてんだろ」
「…え?」

ため息が聞こえたと思ったら、身体をぐるりと反転させられ、真正面から顔を合わせることになってしまった。

「大体な、お前を船に乗せた時点で気付け」
「……ど、ういう、」
「それに下にあんだけ良い女がいながら、こんな胸もない傷だらけの、ましてや処女なんて、この俺がわざわざ好き好んで抱くと思うか」
「………お、思いません…」

結構ぐさぐさとくる言葉をもらいながらも、それを解いていくと、つまり、それって。
都合の良い方向に、考えて、しまう、じゃないか。

「言えよ」
「な、何を」
「言え」
「え、え、」
「そうしたら、こたえてやるから」

意地悪く、彼は笑う。
これは、その、いいん、だろう、か。
言っても、許されるんだろうか。

「早くしろ」
「ま、待って」
「待たねぇ」

飲み込まれそうなほど近い瞳。
促されるように、唇が勝手に動く。


「……すき」


極力小さい声で呟いた。
彼に届かなかったら、それでもいい。
届いたら、そしたら。

「言えんじゃねぇか」

また、重なる、ゼロ距離。
顔がばっと赤くなって、両手で顔を隠した。

「…何で今更恥ずかしがる」
「だ、だって、あれ、あれは、ちょっとその、酔いが、抜けてなくて、ですね、」
「慣れろ」
「む、無茶言わないで、」
「だったら慣れさせる」

顔を隠す手の甲に、柔らかいものが触れる。
もう、何だって、このひとは。私を、殺してしまうつもりなんじゃないか。

「それと」
「は、はい」
「男になりてぇとか言ってんな」
「……へ、」
「男だと、色々面倒臭ぇ」

どこで、そんなの、聞いたんだろう。
全然わからないけど、キャプテンにわからないことなんてないのかもしれない。

「…さっさと寝ろ」
「でも、そろそろ時間、かなって」

朝日は少しずつ高く昇ってきてる。
眠いのは、すごく、わかるけど。

「あいつらはそう簡単に起きねぇよ」
「…ですかね」
「ああ」

シャチなんかは、きっと起きたら隣に居るお姉さんにびっくりして時間取るだろうし、…何より。
今私の目の前に居る人がキャプテンなんだから。
キャプテンがそう言うなら、そうなんだ。

もうすっかり酒の抜けた頭の中、隣の体温が温かかった。



なりたいもの



(ねぇ船長さん)
(あ?)
(右の、手前から四番目の部屋)
(……)
(好きに使ってくださいな)
(…出航まで三日ある)
(……)
(あいつは好きに使え)
(ふふ、そうさせて貰うわ)

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