みんながいるであろう門を目指して廊下をただ走る。みんなの無事を確かめたくて、みんなに会いたくて、父上の事も話したくて。
女中達から「姫様、はしたのうございます」なんて言葉をいくつも掛けられたけれど、とりあえず生返事をして門まで走った。

もうすぐ会える。そう思う度に足も心も軽くなっていくみたいだった。

廊下の角を曲がり門が見えるところまで来てから立ち止まってみんなの姿を探す。だけど、そうするよりも先に、見覚えのある赤と青が目に飛び込んできた。それが幸村と独眼竜であることを理解するのに時間は掛からなかった。

「幸村!独眼竜!」

精一杯の大きな声で二人を呼ぶと、二人とも私に気付いてこちらを見た。二人ともボロボロだったけれど、とりあえず無事みたいだった。履物も履かずに足袋のまま、私は二人の側まで走り出した。私が走り出すと幸村も同じように私の元へと走り出した。
丁度私がいた場所から独眼竜がいる場所の真ん中あたりで向こうから来た幸村と鉢合わせして立ち止まる。

「…っ、」

上がった息を整える前に、幸村の顔を確認する前に、声を聞く前に、私は思いっきり幸村に抱き着いた。

「!?ひ、ひひひひめさま…!」

幸村の驚いた声が耳の近くで聞こえる。幸村の声とあたたかさで、改めて帰ってきてくれたんだと実感して嬉しくなって、幸村の首に回した腕にさらに力を込める。

「おかえりなさい、幸村…!」

「たっ、只今戻りましてござります…!」

幸村の上擦った声が耳に届く。さらにぎゅっと幸村に抱き着くと、思った通り幸村は突き飛ばすでもなく抱き返すでもなくただ身体を強張らせていた。

こうやって幸村に抱き着いたのは何年ぶりだろう、あの頃と変わらないままあたたかい。

多分幸村はずっとあの頃のままだったんだ。私が変わってしまったと思い込んでいただけなんだ。そんな事に気付いてさらに嬉しくなった。


「…そのくらいでOKか、じゃじゃ馬」

「…っ!独眼竜!」

幸村の肩越しに呆れた顔をした独眼竜が見えて、恥ずかしくなってパッと幸村から離れる。

「ちったあ外野の事も考えろ、」

外野、その言葉に独眼竜の後ろを見ると、佐助や右目様、椛や他の兵達がいた。佐助はにやにやしてるし、椛は意味ありげに微笑んでるし、右目様は少しだけ頬が赤く染まっていた。他の兵達もにやついたり頬を染めたりしている。

「み、みんな…!おかえり、なさ、い!」

ごまかすようにそう言えば、佐助が吹き出して、それを皮切りにみんな笑い出してしまってますます恥ずかしくなる。
隣にいる幸村をちらりと見ると、自分の装束に負けないくらい真っ赤になっていた。

「そ、そうだ幸村!父上ね、目が覚めたのよ!」

「ま、誠にございますか!?」

「ええ、本当よ!案内してあげる!」

みんなの前から逃げたくて、幸村の腕を引っ張って走る。最初はただ引きずられるだけだった幸村も私の行動の意味を理解したみたいで一緒に走り出した。

たどり着いた父上の部屋で、父上に「二人して頬を染めてどうしたんじゃ」と首を傾げられ、初めて自分の頬が赤く染まっていることに気がついて、同じように頬を染めていた幸村と顔を見合わせ、苦笑した。


(おかえりなさい、    )


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