それから、父上達は村人達を一人一人埋葬して私を連れて屋敷へ戻った。だんだんと父上の話は今に近付いていった。屋敷に私を連れ帰った時、母上を含む誰もが驚いたけれど、父上や昌幸様の話を聞いて理解してくださったらしい。母上は他の姉様や兄様達と同様に私を愛し、育ててくださった。いくつかにわけて、父上はゆっくりと全てを話してくださった。
「…これがお主を拾った時の全てじゃ」
「…」
父上の口から真実を聞いて、やっぱり私と父上は血の繋がりがないのだと知り、少しだけ悲しくなった。でも、そう思う以上に聞いてよかったとも思った。今まで知らなかったいろんな事を知ることが出来たから。
「私の名は、昌幸様が付けてくださったのですね」
「うむ、そうじゃ。それに昌幸がお主を見付け、育てると言わなければ、お主はここにいなかったことにもなる」
「昌幸様にも父上にも母上にも…改めて感謝しなければなりませんね。」
私がここにいるのは、私を見付け育てるといってくださった昌幸様と、昌幸様に代わり私を育てると決意してくださった父上と、自分がお腹を痛めて産んだ子ではないのに他の兄様や姉様と同じように育ててくださった母上のおかげ。色んな方々のおかげで私はここにいるのだと改めて実感した。
「父上、ありがとうございます。本当の事を話してくださって」
床に手を揃えて、父上に頭を下げる。
「私、もっと頑張ります。武田の姫という肩書きに恥じぬ自分になる為に。村の人達やお父様とお母様の分まで精一杯生きていきます。これからも…父上の娘として」
そう言い終わってからゆっくりと頭をあげると、父上が優しく微笑んでくださっていた。
「父上、これからもよろしくお願いいたします」
「うむ。精進せいよ、我が娘十六夜よ」
「…はい!」
父上の声に精一杯の大きな声で返事をして、さっきの父上と同じように微笑んだ。
すると、父上は床からゆっくりと起き上がろうとした。傷を受けてまだ日は浅いから寝ていた方が良いのに、そう思いながらも起き上がる父上の背を支えるべく近付く。
私の微々たる手助けで上体を起こした父上は、その大きな手で私の頭を撫でてくださった。いきなりのことだったので少し驚いたけれど、それ以上に嬉しくなり、目を細めた。
しばらく父上に頭を撫でられながら「大きくなった」とか「まだまだ甘えん坊」だとか他愛ない会話をしていると、外から騒がしい声と馬の駆ける音が聞こえてきた。
「!…幸村達、」
きっと数日前に屋敷を出発した幸村達が全てを終えて帰ってきたんだわ。みんなの帰還が嬉しくて立ち上がり、障子を引いて外を見る。この部屋からは門が見えないから姿を確認する事が出来ないけれど、先程よりも声と音が大きくなった。
「十六夜、」
「…!」
父上に名前を呼ばれ、振り返る。父上は先程と同じように優しく微笑んでいた。
「行ってくるがよい」
「…はい、父上!」
父上の言葉に背を押されるように、私は部屋を飛び出して廊下を走り出した。