父上のあたたかい手に、涙腺が緩んで次第にぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。こぼれた涙は頬を伝って、父上の手にも落ちていく。ごめんなさいと言おうとしたけれど、父上が優しく微笑んでくださったから、そんな言葉なんか出て来なくて。代わりに父上の手をぎゅっと握りしめた。それと同時に、頬を濡らす涙の量がさっきよりも多くなった。
父上の手を取り、泣きつづける私を、父上は何も言わずずっと見ていた。時折嗚咽混じりに父上を呼ぶと、父上はその度に優しく微笑んでくださった。そうやって、私はしばらく泣きつづけた。
「…っぅ…」
しばらくして漸く涙が止まり、父上を手を離した。父上の手は私の涙で濡れていた。父上の手を掴んでいた手で、泣き腫らした目を擦ると少しだけ、ひりひりとした痛みを感じた。
「…十六夜、」
「っはい…」
私が泣き止んだのを確認した父上が私を呼んだ。
「…もうお主は儂が思うておるほど童ではないようじゃ」
「…」
「今からお主に、全てを話そうと思う。」
「…」
「お主を拾った時の事を」
父上は私を見ず、天井をまっすぐに見つめていた。全てを話す、父上はそう言った。私が父上に拾われた時の事、聞きたいけれど、全てを知ってしまうのは少しだけこわい気もする。
だけど、ちゃんと向き合わなきゃ。
「…お願いします、父上。」
「うむ」
私がこの先今までと同じように、武田の姫として生きてゆくために。姫という肩書きに恥じぬ生き方をするために。
「…十数年前、東の国境にとある村があってな」
私の返答を聞いた父上は、ゆっくりと語り始めた。私はそれに、静かに耳を傾けた。