「…お願い、独眼竜」

今まで聞いたことのないような姫様の凜とした声が耳に届く。此処からは政宗殿と向かい合っている姫様の後ろ姿しか見えないが、声と同じように凜とした顔をしているのだろう。本能寺へ連れて行って欲しい、姫様は政宗殿にそう言った。本能寺へ行くなんてなんと無茶な事を申されるのだ姫様は。駄目だ、そう叫びたい気持ちだったがどういう訳か某の身体は動かない。声すらまともに出せない。


「理由を聞かせてもらおうか」

「父上の仇をとりたい、それだけよ。」

政宗殿の問いの答えを言う姫様の声はやはり迷いのない凛々しい声だった。その答えに元々鋭い政宗殿の目が更に鋭くなる。

「十六夜ちゃん…気持ちはわかるけど、十六夜ちゃんには無理だよ。織田は、十六夜ちゃんが敵うような相手じゃない」

「っ…そんなこと、言われなくてもわかってる!」

佐助の言葉に、姫様が声を荒げる。

「だけど、もう嫌なの!ずっと屋敷の中で守られてるだけなのは、嫌なの…!」

「十六夜ちゃ、ん」
「私の大切な人が、私の知らない所で傷付いて…、いなくなってしまうなんて嫌なの!私と父上は血の繋がりはないけれど…それでも、やっぱり私にとって父上は大切な父上に変わりはないからっ…。」

姫様の声が段々と震えてくる。姫様の側に寄った佐助が困惑したような顔付きになる。

「武田の、みんなが行かないなら、私が行くの。私は…甲斐の虎の娘だもの」

甲斐の虎の娘、その言葉ははっきりとした声で紡がれた。こちらに背を向けて立つ姫様の顔はやっぱり見えない。

「だけど、十六夜ちゃんやっぱり」

「わかった、付いて来なじゃじゃ馬」

「な…!」

佐助の声を、政宗殿が遮る。政宗殿の言葉にその場にいる全員が驚いた。ま、政宗殿も何を申しているのだ…!お止めしなければ、そう思い身体を動かそうとしても、やっぱり動かない。いつもと違う姫様の姿に気圧されているのだ。

「…独眼竜…いいの?」

「行きたいって言ったのはアンタだろ?ただし、最低限自分の身は自分で守れ。」

「おい、独眼竜!何勝手な事を…」

「心配なら勝手について来てアンタらの大事なprincessを守りな。おい、先に行ってな」

「う、うん…!独眼竜ありがとう」

「あ、十六夜ちゃん!」

少し嬉しそうな声色で政宗殿に返事をした後、姫様は政宗殿の横をすり抜けて行ってしまった。姫様の姿が見えなくなると、不思議と某の身体が軽くなった様に感じた。

「…姫、さま…」

小さく呟いた言葉が聞こえたのか、政宗殿は一瞬だけこちらを見た。しかしすぐに背を向けて外の方へと歩き出した。

「筆頭!」

「俺達も一緒に…」

政宗殿を追いかけ、伊達の兵が走り出した。政宗が一瞬だけ立ち止まる、その直後政宗殿は兵に向かって刀を振り上げた。振り上げられた刀は伊達の兵の髪を掠めた。突然の事に皆驚いて言葉を失う。

「こいつはてめぇらと楽しむpartyじゃねえ。」

刀をしまいながら言葉を吐く政宗殿に身体が自然に動いた。部屋を走り、跳んで政宗殿の所に降り立つ。

「政宗殿!何をするのでござる!この者達は貴殿の為に貴殿と天下を取るまでは死ねぬと、大仏殿の下敷きになっても気力で生き延びた、得難き家臣達でござるぞ!」

「はっ!てんで説得力がねえなあ。あっさり死んじまった野郎が何を吠えようがよ…」

不意に、政宗殿が無理矢理某の首に掛かる六文銭を掴んで引き寄せた。苦しくなって顔を歪ませる。
「こいつもただのお飾りってわけだ!」

ぎゅう、と強く六文銭を掴み鋭い目で睨みつけられる。

「地獄の川の渡り賃…、初めてアンタに会った時、俺はそう踏んだ。残念ながら見込違いだったみたいだな!」

強い声色でそう叫んだ後、政宗殿は先程よりも低い声で某にしか聞こえないように呟いた。

「アンタなんかより、あいつの方が余程勇敢な虎だな」

「な…っ」

何かを言おうと口を開こうとすると、殆ど突き飛ばすように乱暴に六文銭を離し、そのまま歩いて言ってしまった。

某よりも姫様の方が勇敢な虎、その言葉が頭の中を支配した。


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