羞恥に顔が燃えるように熱くなる。己が発した言葉に今更ながらに後悔する。

「旦那、」

「な、なんでもござらん!」

佐助が何か言おうとするのを遮り、赤くなっているであろう顔を背けた。佐助のため息が聞こえてきた。

「…ちゃんと見てたんだねぇ」

「…っ」

見てきた、ずっと。十六夜の姿を。元服してから再び十六夜と時を過ごしてきた。日毎姫らしくなっていく十六夜を、時折見せる女子らしい仕草を。そのような十六夜を遠く感じたりした。

「やっぱり旦那、十六夜ちゃんの事好きでしょ」

「ななな、何を申すか佐助!俺は…いや某はっ…!お護りせねばならぬお方にかような思いなど抱いてはおらぬ!」


佐助の言葉に顔が更に熱くなる。何を申しているのだ佐助は!

「一国の姫に家臣ごときがそのような感情など抱いてはならぬ!」

そうだ、十六夜は…姫様は大切な武田の姫君。例え姫様がお館様の血を継いでなくとも。血などどうだっていい。


「でも、十六夜ちゃんは大将の娘じゃないよ?」

「佐助!」

「冗談だよ」

「冗談にしても言っていい事と悪い事がある!血筋など関係ない、姫様は姫様であろう!」

「わかってるよ旦那」

冗談を言う佐助に怒りを覚える。

「それより旦那、十六夜ちゃんのこと」

「な、何度も言わせるな!姫様に恋慕など抱いてはおらぬ!」

佐助がその話をする度、顔が熱くなり胸の鼓動が速くなる。必死に冷静になれと身体に命令しても逆効果、段々と速くなるばかり。

「そんな顔で言われても説得力ないっての」

「なっ…!」

「旦那、苦しいでしょ今」

自分の胸に手を当てる。確かに、今までにない程心臓が強く速く脈打っている。伊達殿の様な強い者と見えた時とはまた違う。あの時の様に嬉しいものではない、ただただ苦しい。息をするのもやっとだ。

「それが恋だよ、旦那」

「は、破廉恥な…!某はそのようなこ…!」

「ちょっと、旦那!」

全て言い終わる前に何故か某は全速力でその場から逃げるように走り出した。何と言おうとしたのかはすぐに忘れてしまった。どうしていいのかわからず、ただただ走りつづけた。

(有り得ぬ、絶対に…!)


頭に浮かぶ全てを消し去ろうと、屋敷の中をただ走っているとどういうわけか姫様のお部屋の近くまで来てしまっていた。今姫様にお会いするのはどうにも気まずい。ならばこのまま走り抜けよう。そう思ったが、急に某の足が止まった。

某の目に飛び込んで来たのは、困った様に笑う姫様と、口端をあげる伊達殿の姿。

「…ひ、め、」

姫様が、伊達殿に笑いかけている。久々に見た姫様の笑顔、喜ばしい事のはず、しかし何故喜べない。何故足が止まったのだ。

踵を返し、来た道を歩いて戻る。幸い気が付かれていないようだった。

「…っ」

苦しい、先程よりも。伊達殿に笑いかける姫様を見てから、心臓がぎゅうと締め付けられる。その苦しさに、某は気付いてしまった、己が姫様を好いているのだと。
あれほど駄目だと自分に言い聞かせたはずであったのに、情けない。そう思い某は強く拳を握った。


(気付かぬ振りをしていたのか、俺は)


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