はやく姫様が目覚められた事をお館様に知らせねば、という思いと、気恥ずかしさとが混ざり合っていたたまれなくなり、足早に姫様のお部屋から出ようとすると姫様に上着の裾を掴まれた。
驚いて姫様のほうを振り返ると、姫様は不安げな顔をなさっていた。

「…姫様?」

「あ、えっと…、私が直接父上のところに行くわ。」

「し、しかし姫様…」

姫様は目覚められたばかり。何もされてないとはいえ、まだ疲れが取れてはいないであろう。万一倒れてしまってはまた大変なことになる。

「…お願い、幸村」

「姫…」

某を見つめる姫様の目は不安の色が混じっていた。先日の戦から帰って来たときのような。

「…わかり申した」

「ありがとう、幸村」

姫様はふわりと笑り、立ち上がる。そんな姫様を見て慌てて某も立ち上がった。

「幸村も、ついて来てくれる?」

「っ、勿論でござる!」

「ありがとう。着替えるから、ちょっと廊下で待ってて」

「承知致した、ではそうお館様に伝えてから戻って参りまする。」

ぱっ、と頭を下げ急いで部屋を出てお館様のところへ報告に行く。報告が終わった後、すぐ姫様の部屋へと戻り閉められた障子の前に座る。勿論部屋を向いてではなく庭を向いて。
庭を眺めながら考える。姫様の様子が少しおかしいと。攫われ、怖い思いをしたのだからしょうがない。そう考えるも、某は何も言えなかった。


しばらくして、部屋を離れていた椛殿が帰ってきた。事情を聞いた椛殿は部屋へと入り、姫様の着替えを手伝い始めた。着替え終わった姫様と共にお館様の待つ部屋へと歩き始める。椛殿は姫様の部屋を片付けるということで某達については来なかった。

程なくして、お館様の待つ部屋へとたどり着く。姫様は障子の前に座り、部屋の中に声をかける。

「…父上、十六夜にございます」

「…十六夜か、幸村から聞いておる。入れ。」

「はい、失礼致します」

お館様の声に姫様は頭を下げ障子を開けて中へと入った。某も姫様の後に続いて部屋の中へと入り、向かい合って座るお館様と姫様からすこし距離をとって座った。
姫様が深々と頭を下げる。「此度はご迷惑をおかけして申し訳ありませぬ、父上」

「…無事で何よりだ十六夜。顔を上げよ」

普段の勇ましさとは離れた優しい声色。そんなお館様の声を聞き、姫様が頭を上げてお館様の顔を見る。

「まだ疲れが取れておらぬだろう、しばらくは稽古事は休んで、ゆっくりと休むがよい。」

「…はい、ありがとうございます父上」

「…うむ。さぁ、もう下がって休め。」

「…父上、」

「どうした、十六夜」

再び姫様はお館様を見つめた。

「ひとつだけ、聞いてもよろしいですか?」

「構わぬが、何じゃ?」

「…」

お館様が返すと、姫様は急に黙ってしまった。何かを言うことを迷っているようにも見える。
暫くそうしていた姫様は意を決したように言葉を紡いだ。

「わ、私が…、私が父上の娘でないというのは真にございますか…?」


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