片倉殿や伊達の兵達と共に屋敷へと戻りお館様にご報告と楯無鎧を返した後、某はすぐに姫様の部屋へと向かった。
急がねば、そう思う度に歩く速度が上がり、ついには廊下を走っていた。途中女中達に何度も注意されたが某の足は止まることはなかった。あろうことかそのままの勢いで姫様の部屋の障子を開けてしまった。

「真田殿!断りもなく障子を開けるなど無礼にも程がありまする!」

「すっすみませぬ椛殿…!」

姫様の側に座っていた椛殿に叱られてしまった。某が謝ると椛殿はため息をついた。某は椛殿の反対側に座る。

「椛殿、姫様は…」

「一応お匙に見てもらいましたが、心配はいらないそうです。ただ、眠り薬を飲まされたか香をかがされたようで、お目覚めになられるまで少し時間がかかるやもしれませぬ。」

「…姫様」

某と椛殿の座る間に眠る姫様を見る。蔵の中で眠っておられた時のように、すやすやと眠っておられる。そういえば、姫様の寝顔を見るのは初めてかもしれぬ。

「真田殿、」

「!な、なんでござろう椛殿」

姫様のことに集中していたために椛殿の声に少し驚いてしまった。目線を椛殿に向けると、椛殿は困ったように笑っていた。

「少し、用事があるのですが、しばらく十六夜様を看ていていただけませんか?」

「し、承知致した!お任せくだされ!」

「では、お願い致しまする。真田殿、くれぐれもお静かに」

大声で姫様を起こさぬよう、椛殿に釘を刺される。すみませぬと謝ると椛殿は苦笑し、会釈してからそっと部屋を出た。

おそらく椛殿は某に気を使ってくれたのだろう。そんなに某は姫様を見つめていたのだろうか。
椛殿の足音が聞こえなくなってから、再び姫様を見る。姫様が目を覚ます気配はまだない。


「…すまぬ」


結果として、姫様は無事だった。たが姫様には怖い思いをさせてしまったに違いない。破ってしまったのだ、約束を。守ると誓ったのに、あのような思いをさせぬと誓ったはずなのに。


「十六夜、すまぬ、俺は」


ぐっ、と膝に乗せた拳を握り不甲斐ない自分に流れそうになった涙を堪える。

目覚めた十六夜は、約束を守れなかった俺を怒るだろうか、呆れるだろうか。悲しいが、そうされても仕方ない。

はやく目覚めて欲しい、まだ目覚めないでくれ。そんな思いが入り混じりながら俺は十六夜を見つめていた。



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