大仏殿の裏へ回りしばらく走ると点々と建てられている古びた蔵を見つける。手当たり次第に扉を壊して蔵の中を探し回る。

ひとつ、ふたつ。中をくまなく探すが姫様の姿は見当たらない。次第に不安が募る。もしかしたら姫様は…、悪い予感を消し去るようにぶんぶんと頭を振る。
ただ姫様の無事を祈りながら同じように繰り返す。扉を壊せど壊せど姫様は見つからない。運が悪いだけだ、きっとどこかにいらっしゃる。そう信じ、最後の蔵の扉を蹴破る。

バキリ、と扉が音を立てひび割れ倒れた先に背を向けて倒れている女子を見つける。
ばらばらの長さに切られた栗皮色の髪を見て、その女子が姫様であることに気づく。

「姫様!」

槍を投げ捨て、姫様のもとへと駆け寄り抱き起こす。手を縛られていた縄を引きちぎり、気を失っている姫様の体を揺する。

「姫、しっかりしてくだされ!姫!」

必死に体を揺すり大声で呼びかける。しかし、姫様の両の目は閉ざされたまま。

「…っ、十六夜!目を開けてくれ…!」

不安で脳内が埋め尽くされ、無意識に姫様の名を呼んでいた。あの日以来呼ぶことを躊躇っていた姫様の名は、簡単に口から出てきた。

「…ぅ…」

姫様の瞼が震え、くぐもった声がした。

「十六夜…!」

ゆっくりと、姫様の瞼が半分だけ開いた。

「十六夜…っ」

「ん…兄様…」

虚ろな瞳が俺を見つめる。兄様、昔姫様は俺のことをそう呼んでいた。どうやら姫様は寝ぼけているようだ。

「…すまぬ、十六夜。起こしてしまったな。まだ夜だ、ゆっくりと休め。」

微笑んで頭を撫でれば、姫様はこくんと頷いた。そしてゆっくりと瞼を閉じた。

「…無事でよかった」

ぼそりと呟いて姫様を抱き上げる。目立った傷はなく、着物も乱れてはいない。どうやら本当になにもされていないようだ。

起こさぬように注意しながら、抱きかかえたまま蔵の外へ出る。

「旦那!」

外へ出ると佐助と片倉殿が寄って来た。

「武田の姫は無事だったのか?」

抱えた姫様を見ながら尋ねる片倉殿に頷く。

「目立った傷も着物の乱れもありませぬ。佐助、先に姫様を連れて屋敷に戻れ。お館様も心配なさっておる筈だ。」

「了解」

出来るだけそっと姫様を佐助に預ける。姫様の寝顔を見て佐助はほっとしたような顔をした。

「じゃあ、先に帰るよ旦那。本当になにもされてないか一応お匙に見せたほうがいい。」

「頼んだぞ、佐助」

佐助は姫様を抱えたまま、飛び上がり見えなくなった。見えなくなった後、某は投げ捨てた槍を拾った。そして少し考える。

(かような事態だったとは言え…)

(姫様を呼び捨てにするなど…!)

なんと無礼な事をしたのだろう、姫様がお目覚めになられたら真っ先に謝らねば。

そう思いながら、某は片倉殿の後に付いて来た道を引き返した。


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