爆発で生じたであろう煙が鼻に届いてむせ返る。
ゆるゆると瞼を開けると、そこには青白い光に包まれた片倉殿と、先程のような不気味な笑みを浮かべる松永の姿があった。
「てめぇには、地獄の扉の開き方を教えてやる。」
「片倉殿…!」
鞘から抜いた刀を肩に担ぎ、片倉が松永のもとへ歩いてゆく。
「卿は私の命を欲するか。結構。欲望のまま奪うといい。それが世の真理!」
松永が刀を振るのを合図に、塀の向こうから無数の爆弾を背負った兵が現れた。
爆発兵は唸り声をあげ、片倉殿に向かって走っていく。片倉殿が危ない、頭がそう判断し、傍らに落ちていた二槍を拾い走る。
爆弾兵を槍で払い兵が宙を舞う。空中で爆弾が爆発し爆風が生じた。その爆風の中から絶えず爆弾兵がこちらへ向かって走って来る。その兵の姿に某は違和感を覚えた。
「この兵達には覇気を感じぬ…かような敵とはまみえた事がのうござる!」
「金で飼い馴らされた連中だ。忠義の家臣なんざいるはずがねぇ!」
絶えずこちらに向かって来る兵を片倉殿と共に倒していく。いくつもの爆発が起こり煙が漂う。
片倉殿は兵をかわし、松永のところへと走って行く。片倉殿に兵を近付けさせぬよう、某は槍を振るう。
敵を倒しながら、ちらりと片倉殿を見遣ると、片倉は苦しそうにうずくまっていた。片倉殿の周りには爆煙とは違う色の煙が漂っていた。どうやら毒のようだ。
その隙に松永が刀を振り下ろす。片倉殿は辛うじてそれを受け止める。
「片倉殿!」
加勢しようと片倉殿のもとへ走る。突然煙の中から兵が現れる。全速力で走っていたためによけきれず爆発に巻き込まれた。
「ぐっ…!」
大きな音と共に生じた爆風で体が宙を舞う。
このままでは地面にたたき付けられる、そう思った瞬間、体に誰かの手が触れた。
「迂闊だぜ、旦那!」
「佐助!」
空中で某を受け止めたのは、先程大仏殿の爆発に巻き込まれた筈の佐助だった。
佐助は某を抱えたまま、地面に着地した。
「無事であったか!」
「俺様を誰だと思ってんのー?まーちょいとあぶなかったけど。…それより旦那、」
いつもの調子で笑う佐助から急に真剣な顔つきになる。「どうしたのだ、」
「あの大仏殿の中に姫様はいなかった」
「なに…!」
佐助の言葉に驚く。あの爆発に巻き込まれ怪我をなさったり、命を落とされたわけではないとわかりほっとした。しかし、
「では姫様は何処に…!」
「まだわからない。大仏殿の裏にいくつか蔵があったから、おそらくそこに」
「では今すぐ姫様を助けに、」
「落ち着きな、旦那」
立ち上がり、大仏殿の方へ行こうとする某を佐助が止める。
「佐助、だが…!」
「さっきの松永の口ぶりからして、多分姫様は無事だ。だから先に松永を…」
佐助がちらりと横を向く。某も佐助に続いて横を向くと片倉殿と松永が戦っていた。体に毒が回ってきたのか、片倉殿の方が押されている。松永の振るう刀を片倉殿は受け止めるのが精一杯のようだ。
「…っ、佐助!片倉殿を助けるぞ!」
「あいよ!」
姫様は、きっとご無事だ。そう信じ、某は走り出した。