馬から降りて楯無鎧を背負い片倉殿の所へと佐助と共に走る。途中毒が蔓延している所があり、あちらの者であろう三人が倒れていた。
片倉殿の無事を願い、また走り出す。
幾つかの扉をぐぐり、階段を駆け上がる。途中、片倉殿達の声がして、佐助には裏に回るよう命令し、更に速度を上げて駆ける。
「待った待った待ったあっ!」
階段を上り見えた大仏殿と松永、そして驚いている片倉殿のところに走る。
「武田が家宝なら、ここにあり申す!」
「真田!」
立ち止まり背負っていた楯無鎧を地面に下ろし叫ぶ。
「某は真田源次郎幸村!お館様の名代として馳せ参じた!」
某は屈んで、楯無鎧を入れた籠の蓋を開けた。
「これぞ、我が甲斐武田に伝わる楯無鎧!まごうことなき本当、しかとあらためられよ松永久秀殿!」
「ほぅ」
鎧を取り出して松永の近くに置き、一歩下がる。
「よもやこれ程容易く、二つの宝が揃うとは…武田の姫を攫って正解だったかな?」
「!」
喜色を混ぜた声色で呟いた松永に隣の片倉殿が驚く。
「松永、てめぇ…武田の姫まで…!」
片倉殿が松永を睨む。しかし松永は表情を変えない。
「武田の宝が欲しければ甲斐の虎に頼めと言ったのは卿ではなかったかな?私はそれを実行したまで。」
「宝は揃った!さぁ、我らが宝十六夜姫様と伊達の兵を解放なされよ!」
松永に向かってそう叫ぶと松永は声を出して笑った。
「な、何がおかしいのでござるか!」
「いやあ、なに…あの小娘を武田の宝などと申す卿が愉快だと思ってね」
「なんだと…!」
松永は大仏殿の方を向いた。
「甲斐の虎の娘の溺愛ぶりは有名だ。だが私にはそれが理解出来ぬ。…価値なき物を愛でて何になるというのかね」
崩れた柱を眺めながら、松永は楽しそうに話す。
「あの小娘はこの壊れた大仏殿…或いは偽物の骨董品と同じだ。何の価値もない」
「…!」
体中から怒りが込み上げ、ふるふると体を震わせる。松永は振り返って先程のような不気味な笑みを顔に貼付ける。
「き…」
「まぁいい。戴いたからには…以上で終わりだ」
パチン、某の言葉を遮り松永の指を鳴らす音が響いた。その瞬間、大きな爆発音と共に松永の後ろの大仏殿が火に包まれた。
「片倉様ー!」
折れた柱に縛り付けられた伊達の兵の姿が煙と炎で見えなくなる。
「佐助!姫…!」
そこにいるであろう二人の名を叫び、火の中へ飛び込もうとすると今度は某達の周りの地面が爆発した。
「っ!」
いつしかそれは某達の足元に及んでおり、爆発に巻き込まれた。
「ぐっ…!」
爆風に体が浮き、強い力で地面にたたき付けられる。体の痛みに耐え切れず、揺れる炎を見ながら、某は気を失った。