本多忠勝と呼ばれた大きな人が地面に降り立つと、黄色い鎧を身に纏った一人の兵、徳川家康が名前を呼びながら本多忠勝に駆け寄った。
本多忠勝は徳川家康を片手に乗せると、轟々と唸るような音をあげ、動き出した。

その途端、武田や上杉の兵が本多忠勝へと向かって走っていく。しかし本多忠勝は大きな武器を振り回し、まるで虫を払うかのように兵達をなぎ払った。

あまりの大きさに私は驚いて声が出なかった。私の前にいた幸村が突然唸り声をあげた。視線を幸村に変えると幸村から殺気に似ているけど殺気ではない別のなにかが放たれていた。

「戦国最強、本多忠勝殿とお見受けする!真田幸村!全力でお相手致す!いざ尋常に勝負!」

そう言い、幸村は本多忠勝へと走って行く。振り上げた二槍は奇妙な形をした武器に止められる。重なったところから火花が散る。ぐいぐいと幸村は押されている。

「みなぎるぅあああ!」

見たことのないような勇ましい顔をして幸村が叫んだ後互いの武器が弾けた。その拍子に幸村が宙を舞う。

「…!」

宙を舞う幸村に体が勝手に動く。だけどすぐに椛に腕を掴まれた。

「なりませんよ」

椛の言葉に大人しく頷く。幸村は私の心配とは裏腹に上手く着地していた。

(よかった…)

きっとこんなこと、男の方にとって、戦場でよくあることなんだわ。だって椛も他の兵もさっきから同じ顔してる。

ゆっくりとそんなことを思う暇もなく佐助の手裏剣が飛び、弾き返される。その直後に父上が本多忠勝に突進する。
二人の武器が交わる。

「お館様!某一対一で…!」

「一人で倒せる相手ではない…!」

二人の気迫で大地が轟いた。
一瞬の隙を付いて幸村が走り、幸村の槍が本多忠勝に突き刺さる。その直後本多忠勝の背後の地面から佐助が飛び出して攻撃するも避けられてしまった。

「…っ」

槍を持つ手に再び力が入る。怖い、こんな場所、私は知らない。

幸村が本多忠勝に刺さった槍を引き抜いて振り回し、飛び上がった。そして再び勢いよく槍を突き刺した。飛び上がった衝撃で槍が折れたけど、本多忠勝は片膝をついた。

辺りの徳川の兵もかなりの数が倒れていた。武田上杉のほうが優勢のようだった。

そんな状況に危機を感じたのか、本多忠勝は急に側にいた家康を抱えて飛び去った。

「…!」

飛び去る本多忠勝をみんなが見る中で、私はたまらず幸村に駆け寄った。

「…幸村…!様…」

「おお、更夜殿!無事であったか!」

私の方を振り返った幸村はいつものような顔をしていた。

「幸村様もご無事そうで何よりで…。」

「うむ、だがまだ油断は出来ぬ。気を緩めるでないぞ、更夜殿。」

そう言い、幸村の顔は先程と同じ勇ましい顔つきに戻った。私はそれに黙って頷く。

その時、先程と同じような轟々とした音がしたかと思うと、本多忠勝が再び向こうから飛んで来て幸村の前に降り立った。

「退け!全軍撤退だ!」

徳川家康の声が響き、徳川軍が一斉に引き返して行く。


集まった兵達と馬にのった父上が本多忠勝を睨み付ける。

「幸村よ、戦国最強と謳われた男はお前を一方の武将と認めたようじゃ」

父上の言葉に幸村の顔に喜色が浮かぶ。

「ここは預ける、全力で持たせよ!」

「はっ!心得ましてございまする!お館様!」

元気よく返事をした幸村は二槍を構えると本多忠勝に目線を戻した。

「儂に続け!」

父上が叫んだのと同時に武田軍が逃げて行く徳川軍の方へと走り出した。

「ひ…更夜殿!こちらに!」

いつの間にか馬に乗っていた椛に手を差し出される。私がそれを掴むと椛は勢いよく私の体を引き上げて椛の後ろに乗せた。

「しっかり掴まっていてくださいませ!」

「う、うん…!」

私が頷くと椛は勢いよく馬を走らせた。
途中振り返って幸村を見ると、幸村はとても楽しそうな顔をしていた。私はずっと、小さくなる幸村を見つめていた。

(それは私の知らない貴方、)


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