道中旦那が嬉しそうに新入りの事を話してて、そいつの名前を聞いた時嫌な予感がした。

まさかその嫌な予感が当たってしまうとは。



「佐助…!」

俺様を見上げる十六夜ちゃんはとても驚いたような顔をしていた。

「ちょーっと失礼。」

「わっ…!」

取りあえずここでゆっくり話すことは出来なさそうだから、十六夜ちゃんを抱えあげて他の兵に気が付かれないようにそっと陣から距離を取る。


ある程度離れたところで十六夜ちゃんを降ろして被っていた笠を押し上げた。そこには驚いている十六夜ちゃんの顔があった。

「…なんでこんなところにいるのかな?更夜」

わざとらしく“更夜”と呼ぶと、十六夜ちゃんの目が、今まで以上に見開かれた。


「なんでわかったの…?」

「んー愛の力?」

「…」

そんな嫌そうな顔しないでよ、十六夜ちゃん。俺様すっごく傷付くんだけど。

まぁ他の兵よりも一回りくらい小さいし、甲冑は見た目は普通のと同じだけど訓練用に作られた軽いやつだし(多分十六夜ちゃんは普通の甲冑を着てると思ってるんだろうな。でも女の子には無理だよ。)、他の兵とは明らかに違うところがあったから、誰だってわかると思う。旦那はどこか抜けてるところがあるから気が付かなかったんだろう。



そんなことより、十六夜ちゃんがここにいるのは危ない。少し抜け出してでも躑躅ヶ崎に連れ帰ったほうがいいだろう。きっと今頃女中たちが慌ててる。

「十六夜ちゃん、」

「嫌」

「まだ何も言ってないよ」

「どうせ屋敷に連れて帰ろうとしてるんでしょう?」

嫌よ、って言って十六夜ちゃんは俺様を睨み付ける。
その瞳は大将と同じように、ゆらゆらと炎が揺れている気がした。なにがあっても、絶対に引き下がらない、そんな風に訴えているような。

…まったく、こういうところは旦那に似てる。
きっと屋敷に連れ帰ったとしても、どうにかして付いてくるに違いない。今までは一度駄目と言ったらちゃんと言うこと聞いてくれてたけど今回は大人しく待ってはくれなさそうだ。

「しょうがないな、危ないから出来るだけ俺様の側にいるんだよ?約束出来るならここにいても構わない。」

「佐助…」

驚いたような顔で俺様を見る十六夜ちゃんに微笑んでみせる。そしてゆっくりと小指を差し出す。
俺様の小指を見て、十六夜ちゃんの顔が曇った。十六夜ちゃんがゆびきりを嫌ってることは知ってたのに、俺様は何故小指を差し出したんだろうか。

「十六夜ちゃん、約束出来ない?」

「約束する…だけどゆびきりはしたくない。」

「そっかそっか、」

ポン、と十六夜ちゃんの頭に手をのせて苦笑いすると、十六夜ちゃんはなんとも言えないような顔をした。俺様はその表情を見ないふりをする。

俺様と十六夜ちゃんが話してる間にもう全て終わっていて、出発の準備が行われていた。
辺りを見回すが、他の兵達はどういう訳だか十六夜ちゃんに気が付いていないみたいだ。(もしかしたら気付いてるけど言わないだけかもしれないけどね。)

「さーて、俺様達も戻ろうか、更夜」

そう言って十六夜ちゃん…更夜の手を引くと更夜の顔がぱあっと明るくなった。

(まったく、俺様ってどうしてこうも姫様に弱いんだろうか)

(あとで怒られんのは俺様のはずなのに)


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -