静寂の中、父上と二人きり。

父上は私の目の前に座っておられる。その顔は怒りを含んだような顔。
それは仕方のないこと、私が魔王討伐へ一緒に行きたいと言ったから。
父上を怒らせてしまったら、もう二度と屋敷から出してもらえないかもしれない。そんなの嫌、嫌だけど、私はどうしても魔王討伐について行きたかった。

「…今一度聞く、十六夜。お主は何故魔王討伐へ共に行きたいのじゃ。」

「…理由なんかありません」

私は父上の目をまっすぐに見る。

「私めも共に行きとうございます。」

父上の眉間に皺が寄る。

「それで儂が許可すると思うておるのか?」

父上の言葉に首を振る。


「思うてはおりません、だけど私の中にいるなにかが、訴えてくるのです。共に魔王討伐に行きたいと。…最初自分の口からかような言葉が出るとは思いませんでした。だけど、段々とわかってきました。」

私は自分の胸に手を当てて目を伏せた。

「ひとりになりたくない…」

「十六夜、」

「つらいのです、屋敷で父上や幸村の帰りを待つのが。父上達にもしものことがあったらと思うと…」

何度、夢を見ただろう。戦で父上や幸村達が刃に倒れ、武田が滅び逝く光景を。

そんなことあるはずない。父上や幸村に限って戦に破れるなど、有りはしない。

わかってはいるけれど、怖いの。

「…十六夜よ、お主にはいつも申し訳ないと思うておる。」

いつもより優しい父上の声にゆっくりと顔をあげる。私を見る父上の顔はとても悲しそうな顔をなさっていた。

「…だが、お主を戦場へ連れて行くことは出来ぬ。」

「父上…」

「お主を危険な目に遭わすわけにはいかぬのだ。」

「戦いの基本なら、椛に教わりました。…自分の身くらい守れます。」

私がそう言うと、父上の顔が険しくなった。

「今度の戦は、幾度と戦をくぐり抜けてきた者であろうとも厳しい戦。お主のような戦を知らぬ者が戦場へ赴くなど、わざわざ死に行くようなもの。」

絶対にならぬ、父上は念を押すように強く言う。

私の身を心配してくださってることはわかってるし、とてもありがたいこと。だけど、父上になんと言われようとも引き下がりたくはない。
色々な気持ちが混ざりあって、言葉に出来ずに何も言えなくて、ただ私はうつむいて黙っていた。


「…さぁ、話は終わりじゃ十六夜。もう部屋に戻って休むがよい。」


父上がそうおっしゃり、私は立ち上がった。

「…」

何も言わずに一礼して私は部屋を後にした。
部屋を出る時、最後に見たのは悲しそうな父上の顔だった。


その次の日、正式に上杉と武田が魔王討伐の同盟を組むことが決まった。

屋敷は大戦の準備の為、何時にもまして騒がしくなり、椛も他の女中に、戦の間私の世話係をしてもらう事を頼んでいた。


父上にも、幸村にも、佐助にも、椛にすら、私は近寄ることが出来ない。いつもと雰囲気が違って、まるで別人みたいに。

わかってるのよ、大事な大戦だということは。だけど嫌なのよ、みんなが戦に行くなんて。私だけ待ってるなんて。

私の知らない幸村や、佐助や、椛や、父上なんて見たくないの。

我が儘なのはわかってるけれど、そう思わずにはいられなかった。




いよいよ出発の日が明日に迫った夜、私はこっそり自室を抜け出した。
向かった先は兵達の武具がしまってある場所。

そこに置かれていた赤い甲冑に触れて、私は深呼吸した。


連れて行ってくれないのならば、付いて行くまで。

薄暗い闇の中、私は決意した。


(父上、ごめんなさい)

(だけどどうしても大人しく待ってるなんて出来ないの)


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