お館様に呼び出され、各国の武将と共に魔王討伐の事を聞かされた後、某は自分に用意された部屋へと戻る為に、明かりが消えて暗くなった廊下を佐助と共に歩いていた。

「…話が少し違ったようだが。」

佐助にそう言いながら、某は立ち止まる。

「かすが殿は、自分は佐助の許嫁などではないと…」

「そんなの照れ隠しに決まってんでしょうがー、ほんっと女心に疎いんだからぁ旦那は!」

佐助が頭の後ろで腕を組み、某をからかうように言った。

「そ、そうでござったか…女子とは難しいものなのだな…」

女子は難しいもの、己が言った言葉に某はふと、先程の姫様を思い出した。

「姫様は…なにをお考えなのだろうか…」

「十六夜ちゃん?」

「さ、佐助!姫様を名で呼ぶなど…」

無礼にも程がある!姫様は我らが守るべき大切な御方。その姫様を軽々しく名前で呼ぶなど…!

「…昔は旦那だって言ってたじゃん。それに姫様いやって言わないからいいっしょ。」

「あの時は…某も幼かった!だが今は…!」とうの昔に元服を済ませた、某はもう、もののふなのだ。たとえ姫様と幼少のみぎりより同じ刻を過ごし、兄妹のように育ってきたとしても、お館様の大事な末姫である姫様にかような振る舞い、許されるはずがないのだ。今の姫と某では、住む世界が違うのだ。

「あーはいはい…」

佐助は呆れたように適当な返事をする。それに某は勢いを失う。

「姫は…某の事を頼りない男だと思われているのでござろうか…」

「姫様が自分も魔王討伐に行きたいっておっしゃった事?」

姫は先程お館様に、自分も魔王討伐に行きたいとおっしゃった。まっすぐにお館様を見つめる姫の瞳はお館様と同じような熱さを持っていた。

「某が頼りない故、姫は自ら出陣なさるとおっしゃっているのだろう?まだ某が姫を守れぬ弱き者だと思い、」

「旦那、姫様が出陣したいってのは、そんなことじゃないよ」

「…どういうことだ」

あの頃と同じ、弱い己であるからではないのか、違うとしたらなんなのだ。

「姫様…寂しいんだよ。」

寂しい。姫様は某達が戦へ赴く間は屋敷にいらっしゃる、だが一人ではないはずだ、椛殿も女中達もいるはず。何も言わず考えていると佐助が続けた。

「姫様は旦那のことだーいすきだから、側にいたいんだよ」

言葉に顔が、熱くなる。

「な…嘘を申すな佐助!姫様がかように破廉恥な事をお考えになるわけがなかろう…!」

「ははは、さーねぇ。まぁ十六夜ちゃんに聞けば本当の事わかるんじゃない?」

わざとらしく言うところからすると、きっと、佐助にからかわれただけだ。そうだ、姫様がそ、某のような若輩者に恋慕など…!あるはずがない…!必死に自分を落ち着かせようとする。

「そ、そういえばかすが殿ゆっくりなされていけばよかったのにな!」

姫様の話題を避けようと、かすが殿の話題を掘り返した。すると佐助は、「旦那話そらすの下手」と苦笑いした。

「ホントだよ。魔王を止める為に、急いで大戦を仕掛けようってんだ。今生の別れだったかもしれないってのに。」

遠くを見つめて、軽々しく言う佐助に、少し怒りを覚える。

「縁起でもないことを申すな、佐助!必ずや生き延びて、かすが殿を幸せにしてやれ!」

某がそう言うと佐助はこちらを向いた。

「俺様はきっちり仕事するから大丈夫なんだけどねぇ…」

再び、視線を戻した。

「…あいつ、ちょっと危ういんだわ」

「?」

一瞬、佐助の顔が曇った気がした。だがすぐにいつもの飄々とした佐助に戻った。

「そう言う旦那こそ、姫様のこと幸せにしてあげなよ?」



再び姫様のことを思い出し、顔がこれでもかという程に熱を帯びた。


(ははは、旦那顔真っ赤ー)

(う、うるさいぞ佐助!)

(もー冗談だよ!…それより、最後はしっかり旦那が魔王の首を取ってくれよな?)


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