七月七日。
世間では七夕と騒がれるけど、この日はいつも空は曇っている。


でかいバイクのエンジン音を切れば、後ろのなるこはヘルメットを取ってふうと深呼吸をした。

「苦しかったか?」
「ううん、平気。もう慣れたー」

夜なのに暑いねと顔の前でパタパタと手で扇ぐなるこを、こんな風に近くで見るのは久しぶりだと思った。


「なに?」
「なにが?」
「見てたじゃん、今」
「いや、なるこに会うのひっさびさだなァと思って」

遠距離恋愛でもあるまいし、会えなかった時間はたったの三日。
それでもオレにとっては長く感じて。

「寂しかったの?」

ニヤリといたずらっぽく笑ってオレの顔を覗き込む。

「バカ言えっ」

おちょくられてムッとして覗き込まれた顔をさっと背けば、なるこはクスクスと笑っている。

(チクショー…なんでオレばっか)

いつもそうだ。
なるこは余裕綽々で、会えなくても寂しいなんて言わない。
いつだったかなるこの大学に迎えに行ったことがある。なるこの周りにはいつも人が群がっていて。
…確か男もいたっけな。
オレの知らないところで、笑うなるこを見て胸が抉られるように苦しくなったのを覚えている。


「キーバ!行かないの?」

なるこの声にハッとして前を向けば、すでにバイクから離れたなるこが手を伸ばしていた。
その手を掴めば、にっこり笑って歩き出す。

この瞬間が一番好きだ。
なるこがオレだけに笑う瞬間が。



「やっぱり今年も曇り空だね」
「んー、一回くれえ天の川見てみたいのによ」
「見たことないの?」
「ないだろ?お前とは」

手を繋いだまま、お気に入りの高台に登り空を見上げる。目の前には黒い海が広がっていて、まるで海に立っているようだった。


「彦星さんと織り姫さんは会えたのかなぁ」
「さぁなー。雲の上は案外晴天だったりするんじゃねえ?」
「うわ!キバって意外とロマンチック」
「なんだよ、わりぃか!」


…だって一年に一度しか会えないって話だ。
この日くらい、会って欲しいと願ってしまうのは三日会えないだけで、こんなになっちまうオレだから。
不安が募る。
いつもオレが、オレだけが追い掛けているみたいで。
だけど、

「大丈夫、きっと会えてるよ」

ぎゅっと握ってくれるなるこをオレはすげー好きで。

「キバもそう思うでしょ」

力強く言い放ったなるこの瞳が細められて、それだけでなにかあったかいものが込み上げてくる。満たされるみたいに。


「オレはお前が好きだ」
「どうしたの急に、会話噛み合ってないじゃない」
「今言いたくなったんだよ!」


抱き寄せた肩口。
オレの胸元からまたクスクスと笑い声が聞こえる。

「なに笑ってんだよ!」
「だってキバ、顔赤い」

うるせえなっ!
お前が好きだからだよ!

こうなりゃヤケだ!と思いながら、会えなかった分の好きを伝えてやろうと思った。
なるこはずっとクスクス笑っていたけど、オレの胸に顔をくっつけていて。

…あたしも好きだよ

そう聞こえたのは、しばらく笑ったあとで。
ドキンと大きく鳴った鼓動を恥ずかしくて聞かれたくなくて、とっさに体を離したら。


「離れちゃうの?」

なんて、なるこには珍しく寂しそうな顔をするもんだから。

「離すわけねえだろ」

もう一度引き寄せた。
さっきよりもきつくきつく、隙間なく。

「離れたら寂しいとか?」

調子に乗って聞いてみれば、

「いってェ!」

思いっきり背中を抓られた。
思わせぶりかよ、なんて思ったけど思っているほど悪い気はしていない。

(仕方ねえからまだ追い掛けてやるか!)

と心に決めた時。

「……寂しいから、離れないで」

小さく小さく呟いたなるこの頬は、薄暗い今でも赤いと分かるほど。

「そういうの、反則だろっ!」

まったくコイツは。
どこまで好きにさせるんだ…!

思いながら、耐えきれず。
つよく抱き締めたまま、風に晒されたなるこの額にキスをした。

ああ、たまんない


「そういえば、誕生日おめでと」
「…そういえば、なのかよ」

さっきまで嬉しそうに笑っていたキバの、分かりやすいほどすぐしゅんとする仕草がおかしくて。

「うーそ、ちゃんと覚えてるに決まってるでしょ」

いつもみたいにいじめてしまう。
クスクスと笑っていれば、真剣な顔したキバが目の前にいて。

「分かってるよ、オレのこと好きだもんな」

なんて、自意識過剰な言葉なのに。その瞳があまりにもまっすぐで今にも唇が触れてしまいそうなその距離に、あたしの心臓を今でもぐっと掴まれるように苦しくなることをキバはきっと、知らないでしょ?



end.


アンケート解答の『大学生パロ』という設定を参考にさせていただきました!誕生日話も詰め込んでみましたが無理やり感が否めないですね…すみません^^;
解答ありがとうございました!




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