「まだいたの」
声が聞こえた。
その方向を見て、あたしはげんなりとする。
「なにそれ。分かりやすいね」
「伝わるようにしたの」
「そんな顔しちゃって。ほんとは俺のこと、待ってたんでしょ」
ほら、始まった。
あたしのげんなりの原因はこれ。
なぜかカカシは、あたしがカカシのことを好きだと思っていて。
…まぁ、他の子にもこうやって声をかけているのかもしれないけれど。
「待ってるわけないでしょ。報告書書いてたの」
「ふーん、どうだか。俺の顔見たら嬉しそう顔したくせに」
「あれが嬉しそうな顔に見えたの?!」
確かあたしはげんなりしたはずなのに…カカシの目おかしいんじゃないのと少し心配になった時。
突然後輩の子たちの黄色っぽい声が聞こえてきた。
「カカシ先輩!お疲れさまでしたぁ!」
「あ〜おつかれ」
「明日の任務も頑張ってくださいっ」
「うん、ありがとう」
きゃーっ、と嬉しそうに言いながら彼女たちはその場を去っていく。
彼女たちの背中を見やったすぐ近くにカカシの微笑んだ顔が見えた。
「モテるね、カカシ」
「なに?ヤキモチ?」
すぐさまその微笑みがあたしに向けられて。
使い回しみたいでちょっと苛立った。
「ヤキモチなんて、妬くわけないじゃん」
強く言ったつもりだったのに、本当は小さな声だったみたいで。
眉間にシワが寄っているのが自分でも分かったからあたしは慌てて俯いた。
「分かりやすいな、なるこは」
ふっと目の前で見た微笑みは、さっきよりも優しそうに見えたのは自意識過剰なのかもしれない。
だけどそれ以上に自意識過剰な発言をするカカシをジロリと睨み付ける。
なにもしていないと、バレてしまいそうで。
ドキンドキンと、大きさを増す鼓動の音。
相変わらず見つめないでよ、なんて困ったように笑うカカシにとうとう降参を出してしまいたくなるほど、自然と近くに寄ってくるカカシに戸惑っていたら。
ふいに見えた、銀色の髪。
「あれ?カカシ、なんかついてる」
「えっ…」
任務中についたものなのか、白っぽいものがふわりと乗っていた。
それを手に取ろうとするけれど、背丈が合わずなかなか届かない。
「動かないでね、カカシ」
「………」
何も言わないカカシに、聞こえなかったのかななんて思いながら、その白いものがなんなのか気になって、夢中で手を伸ばした。
やっとの思いで手にとった正体は小さな花びらで。
(桜にしては…白いなぁ季節はずれだし…)
思いながら、少しだけ触れたカカシの髪。
はじめて触れたそれは、想像以上に柔らかい。
近くから見るときらきらしていて、あたしは知らずのうちにまた手を伸ばしていた。
「わぁー…カカシの髪って柔らか…い、ね?」
我ながら図々しいかなと思うほど、さらさらとカカシの髪に触れて結果的にカカシの頭を撫でているみたいで。
だけどはじめて触れるその柔らかさに感激してしまったあたしにカカシは。
どうせまた、惚れ直した?とか言ってくるのを予想していたのに。
「…………」
あたしの目の前には、これまた初めて見たカカシの赤い顔。
口布をぐいっとあげて、しまったというようにじとりとあたしを見やった。
「そ、そんな顔…」
しないでよ、
最後まで言えずに伝染したようにかあっと顔が熱くなる。
「お前が頭撫でるからでしょーよ…」
ボソボソと、さっきまでの威勢はどこへやら。
そんなカカシを可愛いとさえ思ってしまって。
………なんて、
ほんとはずっと、ドキドキしてたくせに。
ずっと触れたかったくせに。
認めてしまったら留まらず、もっともっと触れたいと思ってしまって。
こうなったらどうにでもなれ!と今にも手を伸ばしそうになった時だった。
「俺も、触っていい?」
同じくほんのりと頬を染めたカカシが、我慢しきれないというように耳元で呟いて。
返事なんて待っていられないかのように、だけどそれはそれは優しく、カカシの指先があたしの頬に触れた。
好きだから、いいよ
耳元で聞こえたカカシの声が鼓膜を震わせた瞬間に、胸の奥がジリジリと痺れた感覚がクセになりそうなほど好きだと思った。
end.
▼アンケート解答の『カカシの髪に触りたい』『照れるカカシ』という設定を参考させていただきました!
解答ありがとうございました!
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