いつだってあたしは彼のお姉ちゃんで、彼が笑っていないと嫌だから、手を差し伸べたくなってしまうんだ。
目が覚めればすぐ近くに金色が見えた。
カーテンの隙間から差し込んでくる光できらきらとそれが揺れる。
すごくきらきらとしているのに、あたしは少しだけ不安になった。
あたしに抱きつくように縋るようにしている時は決まって目の前に金色が見える。
隣りで寝ていたナルトが、しがみつくようにすり寄っている証拠。
そういう時は、大抵ナルトは。
笑っていない。
「ナルト…?」
「……おはようってば」
「おはよ。何かあった?」
ぴとりとくっついたナルトの顔は見えないけど、笑っていないことは分かった。
それを伝えるように、ナルトは「姉ちゃん…」と悲しげに呟く。
普段ナルトは、あたしを姉ちゃんと呼ぶ。
年上でいつもナルトの面倒を見てきた。まさか、こんな関係になるなんて思ってもみなかったけど。
『姉ちゃん!好きだっ!一緒にいようってば!』
顔をこれでもかってくらい真っ赤にして、叫ぶように伝えられた気持ち。あたしは何故か当たり前のように自然に、あたしも好きだよ、と言っていた。
『ま、マジ?!!よっしゃー!!!』
拳を空に向けて、あの金色の髪よりもきらきらな笑顔。
幸せで満たされると同時にきゅっと胸が苦しくなって。ナルトに恋してるんだって実感した瞬間だった。
ナルトが笑えば笑うほど、愛しさが増えてくる。幸せに満たされる。いっぱいいっぱい愛したくなる。
だから、ナルトの笑顔が消えるのは嫌だった。
「ナルト?嫌な夢見た?」
「……」
未だ縋るように額を、あたしの肩につけていたナルトがそっと顔を上げた。
きれいな空色の瞳が、少しだけ潤んで見えた。
「怖い夢…っていうか、一人になる夢…昔みたいだったってばよ」
ぎゅっと掴んだナルトの手はあたしより大きいのにどこか頼りなくて、しっかり握っていないと離れていってしまいそう。
「オレ…こんなんじゃダメだってばね。火影になる男なのに」
普段は。
いつも笑顔でいたずら好きで、騒がしくて。
そんなナルトが時折こんな風にしゅんと弱くなる。
情けない…。
なんて、一度も思ったことはなかった。
あたしを見つめるその空色の瞳は、こんな風にしゅんとしたって弱さなんてひとつもない。強い眼差しであたしを見てる。
強すぎて、全部持っていかれそうになるくらい。
「ナルト、大丈夫。ナルトは一人じゃないでしょ。あたしがいるよ。ずっと一緒だよ」
あやすように頭を撫でれば心地良さそうに瞼を下げた。
かと思えばとっさにあたしを力強く引き寄せる。
びっくりしてナルトを見れば、さっきとは違う顔付きのナルト。
いたずらっぽくニッと笑って「やっぱ好き!」なんていつもの調子で抱き締められた。
「姉ちゃん好きだ」
首もとから、つぶやくように聞こえるナルトにしては掠れた声。
「ん…知ってる」
「姉ちゃんは?」
「もちろん、好きだよ」
「こんなんでも?」
「こんなんって?」
「うー…だから、その、甘えん坊?」
「ふふ、」
「笑うなってば…」
「ごめんごめん」
「…姉ちゃんには、甘えちまうってばよ」
「いいんじゃない?特別な感じがして嬉しいよ」
「マジ?」
「マジ」
顔は見えない。
だけどナルトの声がする。
抱き締めるナルトの手の温度が、じわりと背中に感じる。
あたしの首筋に顔を埋めて、感じる息遣いに少しだけめまいを覚えた頃。
「でもさ、オレ…」
背中にまわったナルトの手にぎゅっと力が入って。
「姉ちゃんには甘えん坊かもしんねえけど、姉ちゃんのことはオレが一生守るから」
「ナルト…」
「ぜってー!守るってばよ」
……なるこ。
呼ばれた名前にはっとした。
生きてきた中で、これほど頼もしいと思ったことがあっただろうか。
名前を呼ばれてこれほど愛しさが込み上げてきたことがあっただろうか。
気が付けば、震える瞼。
金色に手を差し込んで小さく小さくありがとうって言った。
泣いてるのがバレないように。
いつだってお姉ちゃんでいたいというあたしのプライド。
外側から腕を回して、あたしが抱き締めているはずなのに。
あたしの首筋に顔を埋めて、さらにあたしを引き寄せるナルト。
それはまるで、抱き締められているような。
そんな気さえするほど、あたしを引き寄せるナルトの手は大きかった。
きみとの愛情論
甘えていいよ
笑ってくれるなら
甘えていいよ
守ってあげるから
end.
▼アンケート解答の『年下彼で甘えん坊なナルト』『姉ちゃんと呼ばれて癒やされたい』という解答を参考にさせていただきました!そして『きみとの愛情論』というお題を起用させていただきました!
解答ありがとうございました!
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