彼はいつも、優しかった。自意識過剰でだけど本当に強くて、いつも笑っていて。ふいに覗く八重歯付きの笑顔が、あたしは一番好きで。
好きで好きで好きで。
朝起きた時から…いや、きっと寝ている間でも彼のことを考えていない時間は少しもないくらい。
だから今も、今日は何してるかな…なんて考えていたから一瞬夢かと思った。
「よォ!お前も休暇か?」
今日は火影様からの呼び出しがない限り任務はない。何の用もなくただふらっと里の本屋に立ち寄ろうとした時だった。
隣りの甘味屋からあたしを呼ぶ声がして、ドキリと鼓動がなった。
「キバ…?」
名前を呼べばよォと手を振っている。
あたしははっとして慌てて今日の身なりを見渡した。
(もっとオシャレするんだった…!)
後悔してももう遅く。
だけどあの笑顔を見れるのは嬉しくてついつい頬が緩んでしまう。
ドキドキしながら近寄れば、キバはニカッと笑ってお前も食うか?とお団子を差し出された。
「キバ、お団子好きだったの?」
任務がない休暇に、しかも一人で甘味屋に来るくらいだから、そうなのかなと思って聞いてみたら。
「いや、俺っていうよりコイツ」キバの足元から突然「わんっ!」と顔を覗かせたのは赤丸だった。
椅子で隠れて見えなかったけど赤丸は嬉しそうにお団子を食べていた。
「赤丸!…ふふ、嬉しそうだね」
「おう。あんま甘いもんはダメだって言われてんだけどよー。任務がねえ日くらいは食べさしてやりたくてさ」
お前も頑張ってんもんなー!赤丸!
そう言いながら、クシャクシャと赤丸の頭を撫でたキバを見て、…赤丸が羨ましいと思ってしまうなんて、ほんとにどうしようもない。
「あれ…?キバくんとなるこちゃん」
突然優しくて女の子らしい声が聞こえた。
キバに会ってから、あたしはキバしか見ていなかったらしくすぐ気付くことが出来なかったらしい。
「おうヒナタか!どこ行くんだ?」
「ちょっと…ネジ兄さんのところに…」
「そうか!気をつけて行けよ!」
彼女はキバと同じ班の子だった。
またね、とあたし達に手を振るヒナタに笑顔で手を上げるキバを見ながら、あたしもヒナタに手を振った。
心の中では、曇り空が広がるみたいにモヤモヤしてる。
笑わないで。
あたしの大好きな笑顔を、他の子にも見せないで。
こんなこと考えてるなんて、キバが知ったら嫌われちゃうかな…。
そう思いながらも止まらない黒い感情は消えなくて、それを振り切るようにあたしは立ち上がった。
「赤丸!あたしのもあげるよ!…ってキバにもらったお団子だけど」
「お前食わねえの?」
「うん、赤丸嬉しそうだし!明日からも任務頑張ってね!」
赤丸の前にしゃがんでキバがやったみたいに赤丸の頭をクシャリと撫でた。
わんっ!と嬉しそうに鳴いた赤犬を見たら曇り空だった心も少しだけ晴れたような気がした。
大丈夫、これくらい何ともない。
キバが他の子にも優しいことなんて前から知っていたし。
多分そんなキバだから、好きになったんだ。
吹っ切れたようにニコリと赤丸に笑いかけて、立ち上がった。
「サンキューな!なるこ」
「…え」
立ち上がった瞬間に、愛しい声と一緒にぽんと頭の上に重みを感じる。
それがキバの手だと分かった時、一瞬にして顔に熱が集中した。
クシャリと、赤丸にそうしたようにあたしの頭を撫でてあの大好きな笑顔を見せる。
(し、心臓が…持たない…)
平常心なんてどこへやら。あたしは慌てて口を開く。
「あ、あたし!赤丸じゃないよ!」クシャクシャと撫でるキバの手が動くたびに、急速に早くなる鼓動の音。顔が赤いのも、隠すのを忘れてしまうくらいあたしは動揺している。
「わりーわりー!でも何か似てるぜ。お前と赤丸」
ははっと笑った口元からあの八重歯が覗く。
さっきの黒い感情なんてどこかにすぐに飛んでいってしまった。
キバが笑うたびに、ぐっと掴まれるように息苦しいよ。
きっとこんなこと、分かっていないと思うけれど。
あと何回、キバの笑顔で乱されるんだろう。
今日だってほら。
今にもその逞しい腕の中に、飛び込んでしまいそうだ。
君は変わらない笑顔で
あたしの心をあまくあまく、乱していく。
end.
▼アンケート解答の『微妙に報われない片想い』という設定を参考にしました!勝手にハッピーエンド的な流れにしてしまいすみません´`解答ありがとうございました!
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