「あ!カカシ、そこほつれてる!」
「あー、こんなのほっといても大丈夫でしょ」
「いいからホラ!任務までまだ時間あるでしょ」

ぐいっと引っ張られ、無理やり隣りに座らされた。このくらいなら大丈夫!なんて言いながら、俺の腕の部分に針を持ってきた。

…え?着たまま縫うの?

「お前刺さないでよ?」
「動いたら刺す」
「…脱いだ方がいいんじゃない?」
「動かないでってば!」

真剣な顔でプツプツと小さな針で縫い合わせているもんだから、これ以上話し掛けないようにしようと決めた。

片手が空いたので愛読書を開く。

だけどそんな活字は頭に入らず、風に靡くなるこの髪の毛が目に入った。

「お前、髪伸びたね」
「……」

真剣ななるこは俺の声が聞こえないようだ。
昔からなるこはなにかに真剣になるとそのことしか出来ず。忍には向いていないと思っていたのに、今では立派な上忍で。

…あ。そういえば子供の頃もこんな風に俺の忍服を縫ってくれたこともあったっけ。

オビトにリン、先生だっていた頃だ。
俺は今より数倍ひねくれていたけど、コイツは何にも変わらない。
自分でも分かるほどひねくれていたあの時も、あの時よりは少しは丸くなった(つもり)の今も、何も変わらないで接してくるから、ある意味家族のように思っていたけれど。

「そういえばお前、あいつとはうまくいってるの?」

それなのにコイツに彼氏ができたと聞いた時は、正直穏やかな気持ちにはなれなくて。ましてや応援する気になんてなれなくて。

「…うまくいってるよ」

(答えられるんじゃないの…)

真剣だから、また返事はないと思ったのにこういう時に返してくる。

「そ、なら良かったよ」

こっちを見ていないというのに微笑みを作って返してみる。キシリ、痛む胸は今に始まったことではない。


「カカシは?」
「え?」
「カカシはなんで彼女作んないの?」

相変わらずプツプツと縫いながら話し出すなるこは、二つ同時に作業が出来るなんて今日はどうも様子がおかしい。

「別に。いなくても死なないし」
「そんなもん?」
「そんなもん。俺にはお前がいるしね」

さらりと出た言葉は、お前は家族みたいなもんだから、お前を一人置いてはいけないよという意味で。もっと言えば、お前さえいてくれれば彼女なんかいらないという意味で…。…ってあれ…。
これじゃあまるで、俺がなるこのことを好きだと言っているみたいじゃないか。
確かになるこのことは嫌いじゃない。むしろ好きな方なんだけれど。

突然、小さな穴に流れ行く水のようにグルグルと悩みだした俺をぼんやりと見ていたらしいなるこは静かにまた作業を始めた。

…と思ったら。

「っ!!」

チクリといきなりの小さな痛み。
目の前にはなにやら目が座ったなるこがいて。

「ちょ、なるこ…?」

どうやらその痛みの原因はなるこの持っている針だと分かった。

「刺さないでよ…」
「だってカカシ、ずるいよ」

刺された箇所をさすりながら言えば、俯いたままのなるこがぽつり呟いた。

「い、今さら!そんなこと言うなんてずるい!」

顔を赤くして歪ませながら、そう言い放つなるこ。真意が分からず、どうして?と聞き返せば間髪入れずにまたなるこが話し出した。


「じゃあカカシは!あたしが彼とはもう終わったよって言ったらどうする?!」

「カカシが昔、長い髪の方が好きって言ってたからわざと伸ばしたんだよって言ったらどうする?!」

「……誰かと恋をしようとしても。カカシがいつも、あたしの中から離れなかったよって言ったら。どうする?」


まくし立てるように言ったなるこも、最後は真っ直ぐと俺を目を見据えている。目尻を少し赤くして、湿っぽく潤ました瞳を向けたなるこを。


あまりにも必死に気持ちをぶつけてくるなるこを。
今すぐにでも抱き締めたくなった。
それは小さな子供を抱き締める時のような気持ちではなく。

俺の中に、ぜんぶ閉じ込めてしまいたくて。

家族のようだと思っていた。昔からの馴染み。そこにこんな感情が芽生えるなんて思いもしなかった。

…わけではない。
きっと、俺は昔からなるこしか見ていなかった。
そういう対象でしか見ていなかったことを今になってようやく分かった。

「なるこ、」
「なに?どうせ、冗談言うなとか言うんでしょ!カカシは昔っからあたしを妹とか家族とか、そういう目でしか見ていな…」

「俺もそうだと思ってたけど、違うみたい」


なるこの言葉を遮って。
目の前に座るなるこの頭に触れる。
少しだけびくりとして目を見開いたなるこは、俺の顔を見るなり次第に顔を赤らめた。


「伝わる?なるこ」

俺はお前がいればいい。


もう一度。
さっきと同じ言葉。
だけどその言葉に込められた想いはさっきより強くて確実だ。

優しく大切に。
なるこの綺麗な髪を撫でれば、甘ったるい風が吹き抜けた気がする。
だからもう一度、その甘ったるい風に乗せて。

小さい頃からお互い何歳、歳をとった?
こんなこと、一度しか言わないよ。
だって照れくさいってもんじゃないでしょーよ。
それにもう、伝わってるでしょ。



――"    "。



ふわり。風が吹いた。
耳元で囁いた言葉に、なるこはしばらく赤面して。
かと思えば、ドスンと音が鳴るくらい力いっぱい抱き付いてきた。



「あたしも好きだよっ!」



ああやっと、抱き締めることが出来る。
甘ったるい風はいまだ吹き抜ける。何年ぶん、言えなかった言葉を伝えるかのように、その風と一緒になるこを強く抱き締めた。




ぼくたちはいつもこんなふうに回り道しかできないけど


end.


アンケート解答の「幼なじみ」設置を参考にさせていただきました!解答ありがとうございました!


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