女ってもんは分からねえ。
ずっとそう思っていたけど別に分かろうともしなかった。
コイツに出会うまでは。
「奈良さん!」
「…なんだよ」
見上げれば白い雲が気まぐれに流れる空。多少暑い気温の中、控えめに吹く風が気持ちいい。
そんな俺の一服時の空間。そこに似つかわしくない、キンとした声が響いた。
「まだ落ち込んでるんですか?!」
ベンチに座る俺の後ろから覗き込むように聞かれてため息が出た。
コイツの思い込みを止めれる奴がいたら、今すぐにでも止めてやって欲しい。
「落ち込んでねえって」
「いーえ!落ち込んでます!明らかに犬塚さんが居なくなってから煙草の量が増えましたもん!」
ほら!朝はあんなにあったのに!とベンチの上に投げてあった煙草の箱を指差して言った。
(なんでそこまで見てんだよ…)
そう思いながらコイツに指摘されたことはさながら間違っていなくて苦笑する。
先週のことだ。
仲の良かった同僚が別の支所に異動になった。場所も日本の端の方で会おうと思ってもそう簡単には会えないだろう。
確かに寂しさはある。
一番と言えるほど気の合う奴だった。
だけど落ち込んでいるかというと、別にそういうわけではない。
恋人でも有るまいし、たまに酒でも飲めればいいと思うくらいだ。
なのにコイツはその同僚が異動した次の日からこんな調子で。
元々俺はコイツの指導係だったから関わらないわけにはいかないのだが。
「奈良さん、寂しさを煙草で紛らわせちゃダメですよ!健康に悪いです!」
(何で新米に説教されなきゃなんねえんだよ…)
年下のくせに、何かと口うるさく言ってくる。
…かと思えば、頬を染めて好きだと言われたのは半月前の話。
返事はいりません!分かってますから!
そんなことを言われ、逃げるようにして去っていき、次の日にはまたいつもの調子に戻っていた。
俺はといえば、今現在はそんな相手もいないし、かと言ってコイツを急にそんな対象には見れずにいたもんだから返事をせずに済んだことは助かったけれど。
「奈良さん体弱そうだからそんなに煙草吸ってたら早死にしますよ!」
…好きな相手にそこまで言うかよ。
なんて、若干自意識過剰じみたことを思ってしまい慌てて心の中で取り消して、それを他人のせいにした。
(…ったく。女ってやっぱ分かんねえな)
コロコロ変わる気持ち。好きだと言ったのに返事はいらないと言ったり、次の日には何もなかったような素振りをしたり。
(そんなもんなのかねぇ…)
呑気に流れる雲を辿る。その様子を見た彼女は静かに俺の隣りに座りぽつり呟いた。
「奈良さんが元気がないと、なんだか悲しいです」
さっきまでのキンキンした声はどこへやら。
ぎゅっと小さな拳を握って小さく小さく呟いて。眉を潜めて切なそうな表情になんだかこっちまで胸のあたりがチクリと苦しくなった。
と、同時に。
分かったことがひとつ。
「…元気なくねえっての」
分からない分からないと考えるのは全部、コイツのことで。
「本当ですか?」
「ホント」
考えるということは、答えが知りたいということで。
「嘘だぁ…明らかに落ち込んでるもん」
「…お前は俺に落ち込ませたいのかよ」
悲しそうにするコイツを見るのが気に食わない自分がいる。
「違いますよ!元気になって欲しいんです!なので、はいどーぞ!」
「はァ?!」
「肩貸しますので思う存分泣いてください!」
「ちょ、うおっ!」
ぼすっと音がするほど頭ごとコイツの肩に引き寄せられて。
思いのほか心地良いコイツの温度を感じた時、どこからかどくんと音が聞こえた。
「な、奈良さん!元気出してくださいねっ!」
ひっくり返ったしどろもどろの声が聞こえ、思わず吹き出してしまいそうになった時、それよりも先に頬が綻んでいることに気付いて。
(すげえ心臓の音)
真っ赤になった首筋と、震えるコイツの指先が見える。
女ってのは分からねえけど、コイツだけは分かりやすいのかもと思ったとき、なんだかその仕草が。
どうしうもなく可愛く見えてしまって。
さっきどくんと聞こえた鼓動の音は実は自分なんじゃないかと戸惑いながら。
「…こないだの返事、してえんだけど」
どくどくと聞こえるちょっと早めの鼓動の音。
最早それがコイツなのか俺なのか、どっちの音か分からなくなりながらもその震えている指先に手を伸ばさずにはいられないほど、コイツに触れたいと思ってしまった。
頭ん中、お前ばっかなんだけど
犬塚には悪ィが…俺の脳は最初からコイツのことしか考えてねえらしい。
end.
▼アンケート解答の『シカマルが会社の先輩』という設定を参考にさせていただきました!
ちょいと設定が無理やりな面が多々ありましたが^^;、こういうちょっとダメっぽいシカマルも好きです(笑)きりっとかっこいいシカマル希望でしたらすみません…!
解答ありがとうございました^^
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