その顔ムカつく





「うっわー、寝転んでみるとやっぱり広いね、さすが建築家」
「…建築家じゃないです」

わざとらしく茶化すのはいつものこと。
二人きりの野宿はいつまでたっても慣れないが任務だから仕方ないと思う。
いつもならそれ相応の大きさの宿を造れるのに、どうしてかこの人と二人きりだと思うと、チャクラの練り加減が狂ってしまう気がした。


「なんか寒くない?隙間だらけの家なんて嫌だよ俺」
「ちゃんと組み立ててあります、僕がそんなミスするわけありませんから」
「随分強気に出たね、じゃあなんでこんなに寒いの?」
「あー…まぁ、広いから。ですかね」

苦し紛れに言った言葉に意味ありげにふ〜んと返事をした先輩を横目に見ながら、少しだけ身震いをした。やっぱりちょっと寒いかもしれない。

「さ、もう僕は寝ますよ。おやすみなさい」
「え!もう寝ちゃうの?俺眠くないんだけど」

夕方からの任務だったから昼寝しちゃったんだよネ、とかなんとか言っている先輩のことは無視を決め込んで僕はさっさと横になった。
寒さを感じるたびに先輩のせいでチャクラコントロールを狂わした自分が情けなく思えてならない。この人と二人きりだからといって動揺するなんて、忍として悔しい。

それにしても。
二人きりなんてのは今回だけじゃないのにこういう場面になるとやっぱり動揺してしまう自分がいるなんて。
それに比べてこの人は、いつものごとくマイペースで余裕綽々。
忍としての力は認めているし、むしろ尊敬の域だ。
しかしプライベートまでも、余裕綽々でいられるなんてなんだか悔しいのだ。…って何考えてるんだ僕は。仮にも任務の前の野宿だっていうのに。

「なにそんなに真剣に考えてるの?」
「は?」
「一点を見つめちゃって…お前目力結構あるんだからそのうち天井に穴開くよ」
「開きませんよ、僕の目力くらいで穴開くような木材じゃありませんから」
「そうだ、お前から出る木材ってどこの?それ気になってたんだよね」
「どこって多分木の葉の里の…………ってそんなのどうだっていいじゃないですか。寝ますよ!明日早いですから」

また先輩のペースに乗せられてしまった…と焦りながら先輩とは逆の方を向きいよいよ寝る体制を整えた。
先輩がブーブー何かを言っているが聞こえないふりをして。
今日は早朝から五代目が壊したであろう火影邸の扉を直していたのだ。瞳を下ろせばすぐに眠れるだろう。


「ねえテンゾウ、寝た?」
「………」
「え?寝たの?」
「………」
「テンゾウくーん。あ、そうだ。しりとりやらない?」
「………」
「俺からネ。猫目。はいテンゾウ、"め"ね」
「…やりませんよ」
「あれ?やっぱり起きてるじゃない」
「先輩の独り言がうるさくて寝られません」
「寝れないんなら、なんか面白い話してくれない?さっきも言ったけどまだ眠くないんだよね」

ホントにこの人はどこまでマイペースなんだろう…。
呆れ気味の溜め息を吐いてみたけれど、実は少しだけその溜め息の中に笑みがこぼれたことも自分では分かっていて。
最近お互い忙しくてこんな風にくだらない他愛のない話をしていなかったな…なんて思ったから。

そう思ったら、なんだか無償に先輩の顔が見たくなってしまった。手、だけでも触れたくなってしまった。

だけど、この体制から先輩の方を向くなんて寝返りといえどなんだか恥ずかしくて出来ない。
このまま朝を迎えるのかと思うと本当の意味での溜め息が吐き出された。

「テンゾウ、寝た?」

広い建物の中、先輩の声が小さく響く。しつこいな…と思いながら、これ以上名前を呼ばれたら僕は先輩の方を向いてしまうという気持ちに駆られた。
そうしてしまったら負けだ。何が負けなのかと聞かれたら返答に困るけど、ここで負けてしまったらきっと余裕綽々の先輩がもっと余裕綽々になって要するに調子に乗ってしまうわけで、挙げ句の果てにはニヤニヤ笑い出したりして…


「?!」


ぐるぐると頭でくだらないことを考えて数秒。
突然背中に温かさを感じて。誰かを確認する前に感じた匂いはよく知ったものだった。

「…先輩、なんですか」
「なんですかって。こうして欲しかったんでしょ」
「僕は何も言ってませんよ」
「言ってたよ、お前の背中が。寒いって」

耳元でその低くて甘い声が聞こえるくらいそばにきた先輩の腕が後ろから伸びぎゅっと拘束される。
背中にある先輩の温度で寒さはすぐになくなった。

何も言っていないのに、僕の心中はいつだって先輩に見透かされていて、丸見えで、悔しいなんて思っていた自分がバカバカしくなってくる。

…この人に到底かなうわけないじゃないか。

思いながら深く溜め息を吐くと背中の先輩がまた見透かしたようにクスクスと笑った。

その仕草がくすぐったくてもう観念しようとやっと思った僕はまもなく逆側に向き直すだろう。

その先の先輩は、きっと百パーセントの確率で余裕綽々なあのニヤニヤ顔をしているに違いない。




その顔ムカつく
(でもそれ以上に愛しいなんて)


考えてみればここに来てずっと考えていることはずっとカカシ先輩のことばかりで。
案の定予想通りの顔をしていた先輩にやっぱり、なんて呆れていたら「お前も俺のこと分かってるネ」と嬉しそうに寄ってきた先輩が正直可愛いと思ってしまった。


end.





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