眠れないなら眠るなよ
眠れないなら眠るなよ
ふいに、シャンプーの香りと一緒にカカシ先生の声がすぐそばで聞こえた。
ずっしりと背中に重く感じるそれは温かいもので、眠りを誘うにはもってこいの温度なのに、今回ばかりはワケが違う。
耳元で囁かれた言葉は甘く全身に行き渡って背中あたりがぞくりと疼いた。
「ね、眠れねーわけじゃねえけど…カカシ先生、オレ、やっぱ下で寝るってばよ!」
間髪入れたようにそう叫べばすぐさま阻止されて。お前はここで寝るんだよ、なんてわざわざ先生の隣をポンポンと叩かれた。
だってよく考えてみろってば。今日初めてのお泊まりだというのに緊張しない方がおかしい。
「どうして?やることやってんだから恥ずかしいことないでしょーよ」
きょとんとした顔でそう言われた。確かにそうだけどそうなんだけど。
こうやって改めてベッドで二人横になると、やっぱり緊張して仕方ない。
先生のちょっとだけ冷たい指先が触れるだけでオレはびくりと反応してしまう。
「はは、ナールト」
「な、なんだってば?!」
言葉までどもってしまったオレはなかなか解けない緊張が息苦しくてとうとう瞼を閉じてしまった。呼吸がうまく出来なくて、吐く息までもが震えてしまって。
「…お前、可愛すぎ。」
誘ってんの?
ふわり、囁かれた言葉にボッと音が出そうになるほど顔を赤くしたのが分かったのも束の間。噛みつくように降ってきた口づけに、脳天がビリビリと痺れたような気がした。
ああ、もう。なんだってこの人は。
「ナルト、口もっと開けて」
こんなにも、全身で、
「…んっ」
「緊張、解してやるから。何も考えれないようにしてあげるよ」
愛しさを表してくるんだろう。
「うっ、あ…。カカシ…先生っ!」
「あ、間違えた」
「…え?」
「"何も"じゃなかった。俺の事だけ考えてちょうだい?それ以外は何も考えなくていい」
「あっ…!ああっ、う、センセっ…」
それでいて、たまに子供のように強い独占欲を見せて。そのあとは決まって信じらんねえくらい優しく微笑んで、優しく触れる。
だからオレはまた夢中になって、めちゃくちゃになって、先生しか愛せない身体になっていく。
すでに涙目のオレに慈むように口づけを落とされて、差し出された手に指を一本、また一本と絡めていけば。
終わらない夜の、始まりの合図。
「眠らせたくないし寝たくないな…」
「それはダメ…だってばっ!明日任務っ…」
「だってもったいないじゃない」
――お前と一緒にいる時間は寝てなんかいられないよ。
またそうやって我が儘ばっかりで、どっちがガキなんだかって思ってしまうくらい。
だけどそんな先生がどうしようもなく愛しくて、背中に手を回してぎゅっと引き寄せてしまうのはオレで。
髪の隙間に差し込まれた指先、身体中にちくりと赤い痕を付けられて、耳元で名前を何度も呼ばれる。
気が付けば窓辺からきらきらと差し込んだ月の光が見えて。
ああ、やっと緊張が解されたと思ったけど、身体中を鳴り響く鼓動だけはいつまでたっても止むことはなかった。
end.