こぼれた白い息をたべた

「どうせケーキないんでしょ」
「誕生日にはケーキって誰が決めたんですか?」

思わずカカシんちは誕生日にはケーキじゃないの?と口から出そうだったけれど、そもそもカカシには家族というものがもういなかったんだと思い直し、口を紡いだ。
相変わらず無表情で箸を進めるカカシは本当に俺よりも子供なのかと思う時がある。
もともと甘いものは苦手と聞いていたけれど、それにしたって程がありすぎる。
だって今日は俺の誕生日なのに、ケーキが食卓に乗っていない。
カカシの誕生日ならまだしも今日は俺の誕生日なのに。

「そんなに言ったってケーキは作りませんよ」
「え?!何?聞こえたの?!」
「俺の誕生日なのにって二回言ってましたね」
「………」

知らずのうちに声に出してしまっていたらしい俺は、よっぽどケーキが食べたいらしい。
だってケーキって日頃あまり食べないじゃない。カカシと一緒にいれば尚更。別に食べなかったからといって死ぬわけではないけれど、一度食べたいと思うともう頭の中から甘くて生クリームたっぷりのケーキが離れずこびりつく始末。

「先生、これ好きでしょ?」

はい、と自分の器から煮物を取り分けてそっと俺の器に乗せるカカシ。
本当は煮物が好きなんじゃなくてカカシが作った煮物が好きなんだけどな…なんて思いながらもありがとうと言えば、カカシはほのかに嬉しそうに笑った。

それだけだ。
それだけでさっきまで…というか今の今まであんなに離れずにいたケーキの件はまっ、いっか。と思えるようになってしまうのだからカカシの可愛さには何もかなわない。

食べ終えたカカシが丁寧に食器を持って洗い場に向かう。その背中を追いかけるようについて行ってしまうのは無意識だった。

「なんです?先生まだ食べてないじゃないですか」
「うん、なんでだろうね?」

ついてきた俺にきょとんとした表情を向けるカカシに居てもたってもいられなくなったのは可愛いカカシのせいだと決めつけて。
とんと肩に手をつきかがみ始めた俺に何も言わないカカシの瞳は何かを求めているようだと都合のいいことまで頭に浮かぶ。

「ん…」

ゆっくりと口を寄せその小さな唇に舌を這らわせた。
一瞬のあいた隙間から滑りこませた口内からはまだ少し煮物の味がして。だけどそれさえカカシのものならば欲しくてたまらない。

「せん、せい…なに…っ」

小さく唸るように言うカカシはやっと抵抗の色を出し始めたけれどもう遅い。そんなことはカカシ本人だって分かっているくせに抵抗するんだから、全く可愛い奴だと胸を擽られる。

「ケーキがないなら、カカシをちょうだい」
「まだ…ケーキのこと…言って………ん、はぁ」

途切れ途切れ。
時折甘い息をはき。
目尻がだんだんと赤くなるカカシはもう誘っているとしか思えない。
隙間から漏れる甘いカカシの吐息があるなら、生クリームたっぷりのケーキなんて目じゃないな、と思う。というか、実際ケーキなんてもうどうでもよくて、ただカカシに触れていたいがための言い訳にすぎなくて。

まぁそんなことはするどいカカシ君だから気付いていないわけがなく、ああ、こりゃあとでまた怒られるかも…と思い出したけれど、ケーキを用意しなかったカカシが悪いんだよとか言えばいいかなんて安易に思っていたのに。

「せ、先生…おめでと」

怒りもせずに、ただ恥ずかしそうにそう言ったカカシ。

「なんだか今日は優しいね?」

そう言えば、今日は特別ですとまた恥ずかしそうに俯きながら言うカカシが愛おしすぎて、危なく泣きそうになったのは言うまでもない。



こぼれた白い息をたべた
(ケーキなんかよりも甘くて愛おしかった)


end.





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