もしこの出逢いに意味があったなら


今日も貴方を追う日々です

そんなことを、慰霊碑の上に広がる空へと毎日投げかけていた。
なんの因果なのか、もう叶うことのない想い人の実の子から告げられた熱い想い。

なんで、お前なの。ナルト。

そう思いながらもあの人の面影を追い続け、ナルトの想いを受け入れた俺は、相当汚い人間だろう。

(先生、許してくれますか…)

元はといえば、死んでしまった貴方が悪い。
そんなことを思う愚かな自分を嘲笑って、だけどどこまでもあの人に似ているナルトを手離そうとは思えなかった。

だけどそれは大きな間違いだと気付いたのはもう随分前のこと。

最初こそ、あの人の面影を追って。日に透けてキラキラと光る金髪も、明も暗もすべてを包むような優しい碧い瞳も。あの人に似ているから、もう触れることが出来ないと思っていたから。
だけど今思えば似ているように見えて、まったく似ていなかった。

俺に向けられるあの瞳。
少しの孤独と不安が奥に潜んでいて。とても一人にはしておけなくて。

守りたいと思った。
そんな瞳は、あの人に似ているわけがなくナルトそのものだった。

「カカシ先生…誰を見てるんだってば?」

一度、ふいにそう言われたことがあった。
今までで一番酷く不安な色味を抱え込んで、言葉に詰まれば、すぐにいつも通りにっこりと笑って、なんでもねえってばよ!と言う姿が。

あまりにも心苦しくて、胸を捩られるように痛かった。

多分ずっとナルトは、俺が誰かと重ねていたことに気付いていて、それでもいいとまた独りにならないようにと必死にすがりついていたのだ。

それが分かったときから、空にあの想いを投げかけるのも忘れ、空さえ眺めるのも忘れていた。

俺の中ではもう、ナルトでいっぱいだったから。

(だから先生、今日で最後にしますよ)

辺りは昨晩に降り積もったのか、一面に広がる慰霊碑は白い冷たい雪で覆われていた。久しぶりに見上げた空は薄暗く、だけど冬の空だけあって澄んでいるような気がした。

ずっとこの想いは消えないと思っていた。
消えて欲しくもなかった。
また違う誰かを想うなんてことはこの先一生ないと思っていたのに。

「カカシ先生!」

あの碧い瞳が、

「カカシ先生、…大好きだってば」

そうさせてはくれなかった。
それ以上にむしろ、

「ぜってー離れねえから」

こんなに人を愛せるということを、あの人以上に思わせて。

(先生、ごめん)

もう貴方を想って空を見上げることはありません。

優しく頭を撫でて、時折抱き締めてくれた。厳しく生きる術を教えてくれたのも貴方で、不安な夜はいつもそばにいてくれた。
ありがとう。
俺は貴方を、本当に本当に……………。


最後に見上げた空。
返事をするかのように舞い降りてきた白くて小さな固まりは羽のように優しい。
あの人が産まれた日付の一ヶ月前。
この日を最後と決めたのは、誕生日も祝えないと思ったからで。
一歩新しく歩き出したその先には。

「カカシ先生ー!遅ぇってばよー!」

腹減った〜、とテーブルにうなだれる金色の少年を見てさっきまでのシリアスな心情だった俺は呆れながらも頬は緩む。

「悪い悪い、先食べてて良かったのに………ってこれ。全部お前が作ったの?」
「そうだってば!今日クリスマスだから一緒に食おうと思って!オレってば頑張っちゃったんだかんな!」

ふん、と得意気に鼻を鳴らすナルト。また健気に頑張ってくれたのだと思うと胸がきゅんと締め付けられた。

「お前…ラーメンしか作れないのかと思ってた」
「はーっ?!嘘つくなってばよ!だいぶ前もラーメン以外のもの作ったことあるだろ!」

せっかく頑張ったのに、とかなんとか文句を言いながら、乱暴に立ち上がったと思えば二つ分の皿を用意して。
盛り付けた頃には、今さっきの唇を尖らせた表情はもうなくて、うまそうだろ!と笑顔を見せたから。

とっさに伸ばした手は、すぐにナルトに届いた。グラスを取ろうと後ろを向いたその隙に腰に腕を絡ませて自分の方へと引き寄せる。

「ど、どうしたんだってば?」

こういうのにはいつまで経っても慣れないナルトは耳を赤くしながら目線だけこちらに送る。

「嬉しいよ、ありがとネ。ナルト」

赤くなった耳を目掛けて囁けばビクリとナルトの体が揺れて。

「クリスマス…去年は任務で一緒にいれなかったから。今年は頑張ったんだってば」

と、ボソボソと言ったナルトの耳がさらに赤みが増して行き、そんな反応を見せるナルトが可愛くて仕方がない。

「…好きだよ、ナルト」

――…お前だけだから。
呟いて、目の前の首筋に口づけて。
微かに触れた金色の髪も、俺の言葉に見開かれた碧い目もお前だから好きで。お前だから愛おしい。

「…オレも、大好きだってば。もうずーっと前から。知ってるだろ?」

見開かれた目が細められて、後ろ向きだった体はすぐにこちらを向いた。伸ばされた手が俺の首に触れると同時にナルトの瞼が閉じられた。

待たせてごめん。
そう心の中で呟いて、今まで何度となく交えていた口付けは初めてのような気さえして愛おしくてたまらなかった。



もしこの出逢いに意味があったなら

あの人を忘れるためとか、吹っ切るためとか。
そういうことじゃなくて。

――お前と一緒に幸せになるために。

お前がそう教えてくれた。

end.






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