ハルジオンに祈ることさえも
まっすぐ俺だけを見て。
そう言えたら、どれほど楽だろう。
あの人がオレを見ていないことは、もうずいぶん前から知っている。それでもオレの告白に驚きながらも頷いてくれたから、誰を見ていようとそばにいてくれたらそれでいいと思った。
だけどそばにいればいるほど、誰かを想うあの人が鮮明に見えてくる。
ふと遠くを見詰める仕草や、ひたすらオレの髪を撫でる行為、名前を付けずに"先生"と呼べばあの人の体は少しだけ揺れるように反応する。
いつだったかエロ仙人に聞いたことがある。あの人には誰よりも慕っていた人がいて、それがオレの髪色とよく似た金色だったということ。
あの人はそいつを"先生"と呼んでいて。
そしてもうこの世にはいないこと。
聞いた瞬間、一生そいつにはかなわねえと思った。
どんなにそばにいても、どんなにオレが好きでいても、どんなに体を重ねても。
あの人の心はそいつが持っていってしまったから。
「そのまま持ってくなんて…卑怯だってばよ」
――死ぬんなら置いていって欲しかった。
寒空の下、ポケットに手を突っ込んで白い息を吐き出した。
それさえもあの人の肌の色に似てると思えて愛おしくなる。
愛おしいのに苦しくて、苦しいのに愛おしい。
会いに行けば、きっとまたあの人がオレを見てくれないことを痛感するだろう。それなのにオレの体は勝手にあの人の家へと動いて。
気が付けば、向かう速さも早くなって瞬身を使ってしまいたくなるほど。
会いてえ…!
吐き出された白い息は、やっぱりあの人の肌を思い出す。夜空に浮かぶ銀色の月も、それを覆う藍色の空も、優しく光る小さな星も。
見えるもの全部が、あの人みたいで。
駆け出したその先に、見慣れた猫背。
さっき任務で会ったばっかりだってのに、その反対側の顔が見たくて。
右と左、二色に光る瞳がオレを見ていなくても。
「カカシせんせーっ!」
「ん?…わっ!ちょ、おいナルト!」
――…大好きだってば。
呟きながら、思いっきり抱き付いた。そうしたら誰かが見てたらどうするの、なんて言いながらも両手でちゃんと受け止めてくれる。
「どうしたの。さっき任務終わって別れたばっかりでしょ」
「んー、会いたくなったってば。カカシ先生んち行ってい?」
いいよ、と言われる前に口布をするりと下げて晒された唇を自分ので塞いで。
お前ね…、と困り果てるカカシ先生を見て盛大に笑う。
盛大に笑えば隣りで呆れたように、だけど優しく微笑んでくれて。
苦しいのに愛おしい、愛おしいのに苦しくて。
だけどこの人の隣りに存在するのはオレだから。オレしかいないから。
「カカシ先生!覚悟してろってばよ!」
「…?なんのこと?」
いつか絶対に、オレだけを見てくれる日が来るように。
例えばオレを通して誰かを見ているとしても、そんなカカシ先生もオレはたまらなく大好きなんだ。
ハルジオンに祈ることさえも
(全部全部愛おしくて仕方がない)
end.