ぎゅーってしていい?


「ネジ!来てくれたんだってば?!」
「………これ渡しにきただけだ」

長期任務を終え、大した怪我はないが綱手のばあちゃんとこで少しだけ診察を受けて帰ってきた。その時に忘れたのだろうクナイや小さな巻物が入ったポーチを届けてくれたのがネジだった。

「お前が来てくれるなんてビックリしたってばよ!」

いつもならサクラちゃんあたりが届けてくれたり、サクラちゃんが用事で届けられない時だってネジが来る確立はかなり低い。

「なーんか嬉しいってば!久しぶりに顔見れたもんなぁ」

オレとネジがそういうカンケイになってからまだ日が経っていない。
何かの届け物のためだと言えど、ネジが自分の家に訪れたことがすごく嬉しかった。

「足、ヘマをしたな」
「へへ、ただの打撲だってば」
「また一人で突っ走って行ったんだろう」
「…さすが、よく分かってんじゃん」

へへ、と笑えばネジは呆れたように学習能力がない奴だ、と溜め息を吐いて。
でもオレは知ってる。
そうやって貶すように言うネジは本当は心配をしてくれているのだ。その証拠にオレを見る瞳の色が少しだけ優しい。
長年見てきた、オレだけにしか分からないこと。

「じゃ、俺はもう行く」
「え?もう帰るんだってば?」
「届け物があって来ただけだと言っただろう」
「ちぇっ、そんな言い方ねえだろ。ふんっ」

唇を尖らせてはいるものの、本当は会えただけで満たされた。
ネジがオレの家に訪れたこと、優しい瞳を見れたこと。
あまり言葉を語らないし行動を起こさないネジだからそれだけで満足だった。

…でも正直ちょっとだけ。名残惜しく、離れがたい。

「ネジ、ありがとうってばよ!来てくれて嬉しかったってば!」

そんな寂しさをぐっとこらえて笑えば、ネジは少しだけ微笑んでくれた。
その表情を見てまた満たされたオレはとりあえず今日はこのへんで我慢しておこうか、なんて思った。
しかし何を思ったのか、ネジは外に出るどころか靴を履いたまま動かない。
不思議に思って近寄れば、途端に腕を引き寄せられ気付いた時の視界はネジの肩越しに見える家の扉の色。ぐっと力の入ったネジの手がオレの背中にしっかりと回っていた。久しぶりに感じるネジの温度がすごく心地良い。


「ね、ネジ…?」

どうした?
そう聞く間もなく、今度は乱暴に離される。
たちまち冷えた温度を感じながらその先にあるネジの顔を見やれば、首から耳から顔全体を真っ赤にさせてネジには珍しく頭を抱えるように額に片手を添えていた。

「わ、るい。お前がそんな顔するもんだから…寂しそうな顔するな」

歯切れ悪くそう言って、それからポツリと離れがたいだろ、と呟いて。すぐに翻して帰ろうとしたからとっさにその手を掴んでしまった。

勝手に言って、オレの心臓ごとごっそり引っこ抜いて、勝手に帰ろうとする。
そのくせそんな大胆なことをしたのに離れがたい、の一言が驚くほど小さい声で。

天然というかなんというか…せっかくセーブしてたものがガタガタと崩れていくことが分かったから。

今日はやっぱり離さないってば。

ネジの手を掴んだまま動かないオレに、さっきのオレみたいに不思議そうに顔を覗くネジを、今度はオレが引き寄せて、力いっぱい抱き締めてやった。


ぎゅーってしていい?

(やっぱ今日泊まってけってばよ)

end.





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