candy | ナノ
飴子にもらった飴玉を
小さい瓶に入れてみた
からんころんと奏でる音が
響くたびに、会いたくなった
candy.2 今すぐ愛して見せなさい
からんころんと瓶を持ち歩き、行き着いたのは湖のほとり。
家の近くの湖は、自然の音しか聞こえなくて心が落ち着くからよく重要な任務の前には訪れる。
だけど明日は任務は休みだと伝書鳩が伝えてくれた。
だけどどうだろう。
任務が休みと聞いた途端、なんだか落胆してしまった。
任務がないということは、飴子に会えないんだ。
そんなことを思ったのなんて今まで一度だってないのにどうしてこんな感情が生まれたのか分からなくて。家に居ても落ち着かない。
外の空気を吸いながら、瓶の中に入った飴玉を眺める。
そうするとなんだか、余計飴子に会いたくなって、やるせない思いのままスケッチブックを開いた。
墨が一番手っ取り早いから、墨で描くのが好きだった。
だけど珍しく今日は水彩絵の具を持ち出して、何色もの色を筆に乗せて。別に何を描きたいわけでもなく、なんとなく塗っていく。
その途中で誰か人の気配がした。
「あら、珍しいわね。色とりどりの絵なんて」
後ろから顔を覗かせたのは緋翠色の瞳をぱっちりと開かせたサクラだった。サクラもこの湖を気に入っているらしくたまにこうして会う時がある。
「散歩かい?」
「ううん、師匠に頼まれたことがあって。今その帰りよ」
そう、と相槌を打てば手に抱えた袋から食べる?と渡された小さなチョコレート。
こんなのばかり食べてたら太るよ、と忠告してあげたら失礼ね!と殴られた。
「なによ、あんただって飴玉持ち歩いてるじゃない」
ふいに言われて何故か動揺してしまった。見つかってはいけないものを見られた、そんな感じがして。
「飴子に…もらったんだ」
「へえー、綺麗な飴玉ね!美味しそう」
「あげないよ」
「な!別にそんなつもりで言ったんじゃないわよ」
耳元でガミガミ言われるのももう慣れっこ。だけどなんでサクラはこんなに怒りっぽいんだろう。
あ、でも確か飴子もか…、なんてぼんやり考えていたら隣りでスケッチブックと瓶の中を交互に見やったサクラがいきなり、ふーん、とか言い出した。
「よっぽどその飴玉気に入っているのね、これ、飴玉描いたんでしょ」
「え…?」
これ、と指されたのはスケッチブックの絵だった。どう見ても飴玉に見えないような、ただスケッチブック全体を塗ったような、乱雑な絵なのに。サクラはどうしてそんなことを言うのだろう。
「だって色が似てるもの、サイが飴玉描くなんて…あ、それとも、」
言いながらニヤニヤとと目を細めたから普段以上にブスだよ、って言おうとしたけど殴られるからぐっとこらえた。
「なに?その顔」
「べっつにー!その飴玉、飴子から貰ったから大切にしてるんじゃない?って思っただけよ。絵も描くほどね」
そう言うとサクラはふふふ、と笑っていた。
ボクはといえば、サクラに言われたことをもう一度頭の中で繰り返す。
だけど繰り返しても分からない。どうしてボクが、飴子に貰ったからといって…ただどこか思い当たる節はある。
あの日から、飴子に無性に会いたいのだ。
「サクラ、一つ聞いていいかい?」
「なによ」
「サクラが言った、飴子に貰ったから…っていうのは意味がよく分からないけれど、ボクはなんだか飴子に会いたいんだ。この気持ちとサクラが言ったことは結び付く?」
聞いてみれば、サクラは何故か瞳を輝かせて。
「当っったり前じゃない!やっぱりサイは飴子が好きなのね」
「はい、好きですよ。ナルトもサクラも飴子も仲間だから」
「そうじゃなくて!!恋よ、こ い!」
「こい?」
「あーもう面倒くさいわね!とにかくサイは飴子に恋をしてるの!」
サクラにガミガミと言われながらも脳内では恋について考えて。もちろん恋を知らないわけではない。昔本で読んだことがあるし、何よりボクを産んだ母さんと父さんは恋をして愛し合ってボクを産んだのだから。
だけど…ボクが飴子に恋?
そう聞いてもなんだかピンと来なかった。
「自分じゃ気付かないのね。ま、あんたなら無理もないわ」
「うん、よく分からない」
「そのうち分かるわよ。恋をするとね、色々な感情が出てくるの。苦しくて辛くて、だけど嬉しくて楽しいこともいっぱい」
「…そうなんだ?」
「初めは戸惑うだろうけれど…まぁ頑張りなさい」
「ボクは…何を頑張ればいいのかな」
さっぱり分からない。
分からないけれど何故かサクラの言ったことはすんなりと入ってきた。
だからなのか、余計に思う。
頑張るってどうしたらいいのだろう。
「普通に。愛せばいいのよ」
「…え?」
「好きでい続ければいいの。そうすればいつか想いは届くわ」
「………」
「…私はそう信じてる」
俯いた先には湖の水面しかないけれど、もっと先を見ているようなサクラの視線。
今何を想っているのか、誰のことを考えているのか。なんとなく分かったから聞くのはやめた。
「僕には、難しいな」
そう言えば、サクラは少しだけ微笑んで、恋愛は誰でも難しいものよ、と僕の肩をポンと叩いて去っていった。
その後ろ姿を見送って、それからもう一度飴子にもらった飴玉を眺める。
これを食べてしまえば、無くなってしまえば。
今のはっきりとしない思いが消えるのだろうか。面倒なことは嫌いだから、任務以外に難しいことを考えたくない。
それなのに。
やっぱりまた瓶の中に閉まった。
カランと鳴ってころりと転がる飴玉を見つめていると、何故かあの子の笑顔が思い浮かんで…やっぱり会いたくなってしまう。
″愛せばいい″
さっきのサクラの言葉が、ぐるぐると頭から離れないのと同じくらい、飴子の笑顔もまたその日、消えることはなかった。
(好きって、愛するってどうすればいいのか分からないけれど。
とりあえず今思うこと、"あの子に会いたい"。)
第二話end.
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