candy | ナノ



色とりどりのそれを
食い入るように
見つめてた
ボクはその瞳が
一番きれいだと思った



candy.1 世界はまるで薔薇色




「あ!ちょっと待って!」

駆け出した先には、甘い匂いのする駄菓子屋。
任務中だというのに呑気なものだ。

「遅れるよ、飴子」
「ちょっとぐらいだいじょーぶ!」

おいでおいで、と無邪気に手招きをする彼女に仕方なく近寄れば、彼女の前には透明な瓶がいくつも並んでいた。

「見てサイ!これ!」
「…ん?これ?」

指差した先に、並ぶのは色とりどりの小さな飴玉。別に珍しいものではないのに…と思いながら、彼女の顔を覗いてみた。

「この飴玉、すごい」

飴玉を一つ手に取ってあちこちの方向からそれを眺める。

「何がすごいの?」

よく分からず聞いてみても、彼女は飴玉から目を離さずボクの声なんか聞こえないかのようだった。

「飴子、もう行くよ」

キリがないと言うようにハァと一つため息を吐く。だって今は任務中だし、正直言ってこんなくだらないことに時間を取っていられない。
そこまではさすがに口には出さないけど(サクラ同様、飴子もすぐ怒るから)、少し不満げに立ち上がり先に行こうと決めたときだった。

「待ってよサイ!」

ぐいっと引き寄せられ、再びさっきと同じくしゃがまされる。だけどさっきより…近い気がした。

「こんな透き通ってる飴玉、見たことある?!」

目の前に光る少し青みがかった飴玉。その先に、彼女の薄茶色い瞳が映し出された。

「ほんと、だ…」

確かにこんなに透き通っているものは見たことがない。だけど今はこの飴玉ではなく。

「ねっ!すごいでしょ!」

その先にある、彼女の瞳。まるで吸い込まれるかのように、ボクの視線を引きつける。かと思えば瞬く間に弓なりに曲がり。
ふさりと頬の膨らみにかかる睫と少しだけ色付いた目尻。
どうしてか、彼女から目線を外せない。

「きれい、だね」

その言葉は飴玉に向かって言った言葉なのか、それともその奥の彼女に向けた言葉なのか。
自分でも判断ができずにいたけど、知らずのうちにボクの頬は緩んでいて。

「あ!久しぶり!サイの笑った顔!」

こんな表情は苦手だったはずなのにこんなにもいとも簡単にできてしまう。

「ふたつ買ってこう!サイにもあげるね」

彼女の嬉しそうな笑顔になにか心の中が満たされる。
飴玉を通して見た彼女の瞳と笑顔。こんな気持ちにさせられるのはこの飴玉に不思議な力でもあるんじゃないかと思ったけど。

「買ってきた!はいっ、サイの分」
「………ありがとう」

飴玉を通さずとも、見える彼女の笑顔は、受け取った飴玉よりもずっとずっとキレイだった。


(その日その瞬間から、君がいればすべてが鮮やかに見えた)


第一話end.






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