放課後のチャイムがなる。下校を知らせる音は、あたしの体をも動かし、名残惜しくそっと温もりから離れてみると、優しい瞳のカカシ先生がいた。

「出血大サービス」

なんて言って、あたしの手を握り胸まで貸してくれた。告白の返事はもちろんNOだったわけだけれど、気遣ってくれる先生の気持ちが切ないながらもやっぱり嬉しかった。

「じゃあ先生、帰ります」

充分幸せをもらったあたしは、そう呟いてぺこりとお辞儀する。
そんなあたしに先生は、少しだけ眉尻を下げて「気を付けてな」と言ってくれる。
だからあたしは、うっすらと残った涙を拭き捨ててにっこりと笑った。

「先生、ありがとう」

部屋から出る間際、これで最後だと言わんばかりにお礼を言う。
思いきり胸が苦しくて涙だって出た。先輩にも呼び出しをくらい挙げ句の果てには殴られて。
散々だったけど…だけどやっぱり好きと言えたことも、それから先生を好きになったことも、純粋に良かったと思える。
そう思えるような、優しい微笑みであたしを見送ってくれた。

きっとあたしはもちろんまだ先生が好きで。
大好きで。
でも、前に進まなきゃいけないから。
この恋は、近いうちにさよならしなくてはいけないとそう思いながら、帰路につく。
そうすれば、また教師と生徒として、カカシ先生と仲良くなれるかな…今はまだそう思ってしまうけれど。



「あれ?ナル子じゃない!今帰り?遅くまで頑張ってるのね………ってそれどうしたのよ?!」

帰り道、偶然会ったのは桃色ヘアーの女の子。最近よく会うなぁと思いつつ"それ"と言われたものを確認してみる。
恐らくその女の子はさっきまで泣きはらした目のことを言っているのだと思ったら。

「殴られたの?!人の手のあとがばっちりついてるわよ」

そう言って緑がかった綺麗な瞳を見開いてあたしの頬を指差した。

(…こっちか)

内心そう思いながら、今あったことを全て話そうか悩んでいたら、強引に近くにあるサクラの家に連れられて、その懐かしさに浸る間もなく氷水に浸かったタオルを出してくれた。…と同時にやっぱり結局殴られた痕の真相を問いただされたのだった。

そういえば、サクラって野次馬根性あったけ…と思い出したのはすぐあとで、どうにかはぐらかそうとしてもこれでもかってくらいの質問攻め。

「それで?」
「いつから?」
「いいから教えなさいよ」

結局最後の方はもう強制で。あたしは泣く泣くついさっきまであったことをサクラに伝えた。

「ふ〜ん…カカシ先生とね〜」
「あ、でもあたし!振られたんだから余計なこと先生に言わないでね!」
「言うわけないでしょう、そんなデリカシーのないことなんて」

そういえばサクラの担任はカカシ先生だったと思い出し口止めを込めてそう言えばすんなりと引き受けてくれて。
先生に恋をしたことを誰にも言えずにもどかしいと思ったこともあったからなんだか少しだけ胸のつかえがおりた気がした。

「実は言うとね、私もサスケくんに振られちゃって」
「えっ?!サスケくんってあのサスケくん?確か中学の頃から好きだったよね?」
「そうよ。こんなに想っていても叶わないなんて悲しいわよね」

ハァ、と小さくため息をついたサクラは手元にあったカップに口をつけて。それを見ていたらなんだかあの頃よりも大人っぽく見えた。

「サクラ…ありがと。あたしを元気付けようとして言ってくれたんだよね」
「何言ってんのよっ。振られた同士慰め合いましょってことで言ったの!」

大人っぽくなったけど素直じゃないところは全然変わってなくて、ぷっと吹き出したら「何笑ってんのよ」なんて言いながら二人で声を出して笑った。

振られたのはやっぱり辛くて悲しい。

だけどあんな風に優しく笑ってくれるカカシ先生やこうして慰めてくれる友達がいるって幸せなことだと再確認。
振られるのは前進するためのものなんて信じていなかったけど、今ならちょっと信じることが出来る。

「あ!そういえばあんたもうすぐ誕生日じゃない?」

パチンと手を打ったサクラが机の上にある卓上カレンダーを持ってきた。
それを見ながらそういえば誕生日来週だ…なんて思っていたら、サクラがまた突然声を上げた。

「よし!誕生日会やりましょうよ!中学のメンバーで!」

新しい恋でも見つけたら?なんて続けるもんだからあたしは慌てて首を振った。

「あ、あたしの誕生日会のためにみんな呼ぶのなんて悪いよっ。集まるなら普通に集まろう?」
「そう?まぁ集まるったってほとんど同じ高校だから明日みんなに会ったら声かけてみるわね」

場所は、シカマルんちかしら!なんて楽しそうに言うサクラの横で、カレンダーに映る自分の誕生日の黒い文字。

(平日なんだ…)

その前々日は、図書室当番だ。

(先生に会えるかな)

サクラに新しい恋なんて言われたけれど、さっき振られたばかりのあたしの中ではまだまだカカシ先生で埋まってる。誰か入る隙間なんてないくらいで。

(先生におめでとうって言ってもらいたいなぁ)

なんて思っていることは、楽しそうに集まりの計画を練るサクラにはとても言えなかった。




end.


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