突然のキバの告白にあたしはしばらく呆然としていて。
今まで気付きもしなかったけど、よく考えたらそういう要素も多々あった。考えてしまうことがまた一つ増えてしまった。人に、好きだと言われたことのなかったあたしは、これからキバとどうやって接していったらいいのか分からなくて。
考えても考えても分からなくて。

(どうしよ、)

ハァとため息をついて、外を眺めた時小さなピンク色の花が目についた。名前も分からないけど、その花は緑色の葉っぱの上にちょこんと咲いていた。

(…サクラに、相談してみようかな)

直感的にそう思い、放課後サクラのところへ行くことにした。





「ナル子!」

授業が終わりみんな帰りの身支度をしている。
あたしはというといち早く身支度を終え、サクラのクラスへと教室を飛び出して行った時。
聞こえたのは、グルグルと頭を巡っていた悩みの原因…なんて言ったら可哀想だろうか。


「…な、に?キバ」

自然と、笑顔が固くなる。

「ったく!そんな構えんなって!」
「えっ」
「何も取って喰うわけじゃねえんだからよー」
「あーあはは…」
「普通にしてくれりゃあいい…っつっても無理か」
「……」
「まっ!とりあえず!今日一緒に帰ろうぜ!」
「えっ」
「なんだよ、嫌なのかよ」
「ち、違くて!今からちょっとサクラに用があって…」
「ふーん、じゃあ待ってっからよ」
「いいの?」
「おう、適当に時間潰してるから気にすんな!ほら早く行け!」
「う、うん!じゃあ行ってくるね!ごめんね!」

慌てて走り出したあたしの心臓はバクバクと音を立てていて。
先生との時とは違う緊張。あたしは普通に出来ていただろうか?
疑問を抱えながらもちょっとだけ後ろを振り返って後悔した。

優しく見守るように微笑んでいるキバがいて。
あんな顔初めて見た。

チクリ、また一つ申し訳ないという気持ちが芽生える。
キバは一番仲良しの男友達だから、気まずくなんてなりたくないのに。
どうしてあたしなんだろ…。

考えたところで、どん!と誰かとぶつかった。
目の前には白い布。前にもこんなことがあったっけ。

「またお前?」
「す、みませ…」
「よくぶつかるな」

その人物はやっぱり予想をしていたその人で。
ぶつかって鼻を抑えたあたしにわざわざ目線を合わせて微笑んだ。
いつもみたいに、ドキンと鳴る鼓動。…だけど、何故か直視できなくて。

「…?なんかあったの」

案の定、あたしのいつもと違う態度をすぐに見極めた先生が心配そうに問いかけた。
その表情が、またあたしの胸の鼓動を鳴らすのに、先生はなんとも思っていないんだろうなと思ったら急に振られたあの時のことが現実味を帯びて蘇る。

「何かあったら言いなよ」

ぽんと頭を撫でるその手はこの時だけじゃなかったのに、わりといつものことだったのに。
そしていつもは嬉しいのに、何故か今日は喜べない。先生の気持ちは十分分かっているのにもしかしたら…なんて期待してしまう。

「先生…」
「ん?」
「どうして?」
「…?」
「どうして、そんなに優しくするの?」

言ってしまってからハッとする。
だって目の前の先生が、困ったような顔したから。
期待してしまったの。
先生の気持ちはあの時に十分理解したつもりだったのに。
あたしは先生が好きで好きで。気持ちを伝えたけれどやっぱり無理で。だから普通の生徒に戻ろうと決めた。
そんな時にキバに告白されて。見たことのない優しいキバの表情を見て…もしかしたら、キバと一緒にいれば先生のこと忘れられるかもって一瞬そう思った。

でも本当に一瞬だった。
こんな風に優しくされたら、すぐに先生でいっぱいになるんだ。
分かっているのに、期待だってしてしまうんだ。



「………すみません、変なこと聞いて」

力なく笑ってその場から去る。
すれ違うその時も先生の顔は見ないようにした。

「…あたし、バカだ」

ぽつり呟いた声は誰にも聞こえないように。
いまだ鼻先には先生に触れた感覚が残ってる。

きゅんと痛む胸の締め付けに、涙が出そうになった。



end.


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