「ヒナタ、キバいる?」
「あ、ナル子ちゃん…キバくんならあそこに。なんだか朝から様子が変で…」

午前中の授業が終わり、ふと気になった腕の痛み。朝よりは良くなったけど、少しだけヒリヒリと痛んで。そう思ったら朝のキバの態度が気になった。
ヒナタに訪ねると、キバはらしくもなく教室の一番後ろの窓際を陣取り、ぼうっと外を眺めている。その目は朝のようにつり上がってはいなかった。

「キバ」

呼べば、黒目だけをあたしに向ける。
今までそんな態度を取ったことがなかったから、なんだか悲しくなった。

「キバ、」
「なんだよ」
「なんで怒ってるの?」
「…怒ってねえ」
「じゃあ何で、」
「あー?」
「何でこっち見ないの」

正確には黒目だけを寄越しているから、こっちを見ているということになるのだけど。
今のキバは、いつもみたいに笑わないし。なんだか怖いし。

「…見てねえのはお前だろ」

ザッと風が吹いて、キバの黒髪が揺れた。
その時のキバの表情が、あまりにも悲しそうで。

「あたしが、見てない?」

なんのことだろう。
思いながら問い掛ける。するとキバは、何でもねえとか呟いて。ワケが分からずに、キバが言う言葉の意味をぐるぐると探して。
たどり着いたのは、朝あたしの腕を強く握ったあの時。"昨日どこ行ってたんだよ"

そう言ったキバを思い出した。
やけに聞きたがっていたキバをはぐらかしたあたし。もしかしたらそれを怒っているのかもしれない。そう思ったから。

「あたしね、昨日学校に来てた」
「………」
「カカシ先生に会いに行ったの」

正直に話した。きっとキバなら大丈夫と思って。

「付き合ってるのかよ」

キバにしては小さい声。少し震えてるように聞こえたのは気のせいだろうか。

「ううん、あたし、振られたんだ」

とん、と寄りかかった窓枠のサンはひんやりと冷たかった。
だけどその時はじめて、キバが体ごとこっちを向いた。

「内緒だよ?サクラしか知らないし」
「………」
「なによ、なんか言ってよ」
「あ、いや、…………悪ィ」

なにが?と一瞬言いそうになったけど、多分キバのことだ。あたしが振られて落ち込んでいるとでも思ったに違いなくて。

「まぁ、最初から叶わないとは思ってたんだけどね」
「じゃあ昨日は何しに行ったんだ?」
「昨日?昨日は…先生が誕生日祝ってくれるって言ってくれて」

だんだんと小声で言うあたしにキバはちょっとだけ眉を潜めた。


「まだ、好きなのか?」


言われて息を飲む。
ここでもう好きじゃないと言うべきなのは分かっていた。だってあんなに先生は気を使ってくれているんだから、あたしはそれに応えないといけなくて。
だけど会いたくて切なくて愛しくて。
あまりにもこの気持ちが大きすぎてキバにすら嘘をつけないと思い、うん、と頷こうとした瞬間。

「そんな奴早く忘れちまえよ」
「…え?」
「だーかーら。早く忘れて新しい恋しろっつってんの」

――例えばオレにとか。
ふわり、耳元で囁かれた声は。ガヤガヤとした教室ではすぐに消えてしまいそうで。
だけど消えずに強く残ったキバらしくない小さな声。"例えば、オレにとか"

響く言葉のすぐあとには、覚悟してろ!と笑ういつものキバの笑顔が隣りにあった。




end.



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