「あら!なまえ、あんたも手作り?おいしそうね!」
「おおー!実は期待してたんだってばよ!いっただっきまーす!」
「ボクもいただいてもいいですか?サクラのマズいチョコの口直しに…ぐふォっ…!」
「サイ!何か言った?!」


今年も甘い匂い漂う季節がきたのかと、いつもと相も変わらず騒がしい7班メンバーを眺める。10代も後半だというのにちょっとバレンタインなんていう行事に浮かれてるんじゃない?と思う一方で、こいつらはこの年になっても本命とやらを作らずに班の仲間でわいわいやっているんだと思うと微笑ましい。

…というのは嘘っぱちで。
どうにもあと一歩という所だと思うのになかなか本命に昇格出来なくて毎年のように歯がゆさを感じているこの季節。
みんなにいつものごとく手作りチョコを配る彼女の姿を見ては、今年も昇格ならずと見えないところで落胆するずいぶん大人な自分。手応えを感じているのに自分からは動けない様は大人だからこそ故だと言い訳することは得意だ。

今年も同じように落胆していれば、彼女は恥ずかしそうに近寄って手作りチョコを差し出してくる。

「か、カカシ先生も…どうぞ」

耳や首もとまで真っ赤に染め、たどたどしく言う彼女を今にも抱き締めてしまおうかと思うのに、微笑むことしか出来ない自分はもう歳云々ではなく性格の問題なのだろうかと思う。
だって確かに、ここまで明らかなのにこちらから好きと伝えるなんて…という無駄なプライドまで出来上がっていて。それ以前に30すぎた大の大人が好きだ、なんて言葉にして言えるわけがない気がする。ただ恥ずかしいだけと言えば、それまでなのだが大抵は雰囲気で流してしまうものだ。

「毎年ありがとネ」

にっこり微笑めばいよいよ目も合わせることも出来ない様子の彼女は俯きながら小さくお辞儀をした。
これで告白されるであろうチャンスタイムは終了だ。今年も変わりなく…口内では彼女の甘い手作りチョコが転がって。物足りなさはもちろんあるのだが、それでもあの手渡される時の彼女の反応はいつ見ても愛らしいなぁなんて思っていたら。

「ヤマト隊長もどうぞ」

隣りのテンゾウがその甘いチョコを配られながら、ぼそりと余計なことを呟いた。

「あ、ありがとう!あの甘いもの嫌いで有名なカカシ先輩が毎年旨い旨いって言ってたチョコって君のだったんだ。確かに旨いね」
「なっ!テンゾー!余計なことを言わんでいい!」
「だって彼女のしか受け取らないじゃないですか〜!よっぽど旨いんだと感心していたんですよ」

満面の笑みで、配られたチョコを頬張るなんだかわざとらしさ全開の部下と、その隣りで目を丸く見開いて固まっている彼女。
その様子が異様すぎていたたまれなくてなんだか目を泳がせてしまう俺。

「じゃ、先輩お疲れさまでした」

そんな雰囲気なのに空気を読むことなくさっさと瞬身で退散したテンゾウの砂ぼこりを眺めながら、アイツわざとだったらどうしてくれよう、と少なからずチャクラが微動したその時。

「カカシ…先生…」

蚊の鳴くような小さな彼女の声が聞こえないわけがなく。

「い、今の話…本当ですか?」

顔は未だに真っ赤に染まっていて、今にも泣きそうになっている彼女を見たら、どうにも触れたくなるのだけど。まだ心の準備も出来ていなかった俺は未だどう回避しようなんて考えていて。頭のどっかではどこまで思春期気分なんだと呆れてしまう自分もいたけど、こうなったら俺からは絶対に言うまいと変なプライドが根強く立ちはだかったのだけれど。

「も、もし…さっさの話が本当なら」

ぎゅっと自分の忍服を握りしめて、

「どうしよう…あたし、すごく嬉しいです…」

なんて涙目で言うもんだから、その瞬間、立ちはだかっていたプライドという壁がガラガラと崩れていった気がして。

「カカシ先生ー!一楽行こうってばよー!…ってあれ?」
「もういないですね」
「ホントだ、なまえもいないわ。いつの間に帰ったのかしら」

立ち込める砂ぼこりを尻目に、腕の中には驚く彼女を抱き締めて。

「せ、せんせ?ここは?」

キョロキョロと見渡す瞬身を使って辿り着いた場所は、彼女が知らなくて当たり前の場所。初訪問の俺の家はどう?なんてそんなことを聞く前に今は。

「帰したくないのよ、ごめん」

抱き締めていた小さな肩をぐっと抱き寄せて円らに輝く彼女の綺麗な瞳を今までで一番近い距離で見詰める。

そうしていたら、

あんなに頑なに言うことの出来なかった言葉が、今ならすんなり言える気がした。



あまくおちるその二文字

一度伝えてしまったら、堰を切ったように溢れ出て、
「ねえ、お前も言ってよ」
なんて催促までする始末なくせに。
「カカシ先生…好…っ」
いざ、彼女が言葉を紡ぐその時、我慢の効かない体が勝手にその愛らしい唇を塞いでしまうのだから、そんな自分に呆れ返りながらも必死にすがりつく彼女を見てそうなるのも仕様がないな、なんてすぐに諦めた。



end.



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