Happy birthday
S
ai 11.25





―――サイなんて嫌い!



こんなつもりじゃなかったんだ。
今日はサイの誕生日だから、プレゼントも用意したし一緒に帰って家に呼んで一緒にごはんを食べたりしようと思っていた。
サイは独り暮らしだからわたしとわたしの家族と盛大にお祝いしたかった。

それなのにわたしは…。

はぁぁぁぁと深くついた息は憎らしいほど晴れ渡る空に消えていった。
目の前の、屋上の手摺にガンガンと頭をも打ち付けたい気持ちにすら陥った。


「サイがモテるのなんて今更じゃん…」


自分に言い聞かせるように呟いたその言葉はぐっと胸の奥を苦しくさせた。

サイはモテる。
そんなのは高校を入学したときから分かっていた。いつだってひっきりなしに女の子から話し掛けられていた。別のクラスの子からも、先輩からも後輩からも。
それなのにサイは私を選んでくれたから、すごく…すごくすごく嬉しくて。だから女の子にモテることなんて、気にしないようにしようって、自分の彼氏が女の子にモテるなんて逆に自慢になるじゃない!なんて思うことにしたのに。

なんでかな、サイを好きになればなるほど気になってしまう。
正直女の子と楽しそうに話してるところを見るだけで気に入らない。

だからさっきも。
女の子からプレゼントをもらって嬉しそうに笑っているサイが許せなかった。
だけど突き返してよ!なんてことは言えないから…。


『どうしたのなまえ、そんな怖い顔して』
『別に、普通だけど』
『そう?怒ってるんじゃない?』
『怒ってないよ』
『……何を怒ってるのか分からないよ』
『怒ってないって言ってるでしょ!しつこいよ、サイ』
『…そう、じゃあもういいよ。感じ悪いな』
『っ!なにそれ…サイなんて嫌い!』


あの時の会話を思い出してはまた深いため息がでる。

―――サイなんて嫌い!

なんであんなこと、言っちゃったんだろう。本当は泣きたくなるくらい、大好きなのに…。

じんと喉の奥が締め付けられた瞬間に、じわりと滲んで視界が歪んだ。
ひゅっと冷たい風と一緒に目を瞑ったらポロリと頬を流れた涙。それをぐいっと手で拭っても堰を切ったように次々と新しい涙が流れてくる。
ぽたぽたと地面に落ちる涙を見送っているうちに手で拭うことも諦めた、その時。


「こんなところにいたの」


聞こえた声、咄嗟に振り向いたらそこには困ったように眉尻を下げて笑うサイがいて。


「な、何か用?!」


思わずぐるりと体をもとに戻して掴んだ手摺をぐっと力一杯握った。
どうして、なんでこんな態度しか取れないんだろう。
自分の発した言葉にいよいよ嫌気がさしてくる。


「なまえと一緒に帰ろうと思って」
「…無理、しなくていいよ…」
「無理なんてしてないよ」


サイは、あんなことを言ったわたしにどうしてこんなに優しくしてくれるんだろう。
サイの優しい声音に一度止まった涙がじわりじわりと再び溢れてくる。


「なまえ、こっち向いてよ」
「い、今は無理っ」
「いいから、ほら」


ぐいっと腕を引かれてその拍子に振り返ってしまって…ぐちゃぐちゃの顔を見られてしまった。
ハハっと笑うサイに見られるのが恥ずかしくてぽすっとサイの肩にもたれ掛かった。

だめだ…ちゃんと謝ろう。


「サイ、ごめんね」
「ん?」
「嫌いなんて言って、ごめん」
「あー、あれね」
「…うん」
「僕には逆に聞こえたけど」
「えっ…?」


「大好きって聞こえたよ」


弾かれたように凭れていた肩から顔を上げれば、にっこりと優しいサイの笑顔。
見苦しい焼きもちを妬いていること、サイはとっくに気付いていて、それでもなお、わたしのそばに居てくれる。


「ふ、ふぇ…」
「まだ泣くの?これ以上ひどくなったらどうするの、顔が」
「うぅ、うるさいよっ」
「あ、鼻水出てる。つけないで欲しいなぁ」
「〜もうっ」


いつも通り悪態をつきながら、だけどわたしを抱き締めるサイの腕は屋上に吹き込む冬の寒い風にも負けないくらい暖かい。


「やっぱりひどい顔」
「言わないで」
「でも普段と変わらないかも」
「なっ!もう!サイのバカ!きらい!」
「はいはい、僕も好きだよ」
「〜〜っ」


知らなかった。
サイがこんなにもわたしを受け止めてくれていること。
こんなにわたしのことを分かってくれていること。


「なまえ、帰ろう」


いつの間にか、青く透き通った空は薄く赤るみを帯びていて。
少しだけ夕日の赤に照らされたサイの白い手が伸ばされた。


「うんっ!」


しっかりと握った手。
握り返してくれる優しい手。
見上げれば優しく微笑むサイがいて。
あの手をずっとずっと握って、隣で笑っていてほしいから。

ねえ、これからも、焼き餅なんて妬く隙もないくらい、わたしのそばに居てくれる?

なんて、欲張りなことを思ってしまったんだ。



きみが微笑む、それだけで




「あれ?サイ、荷物それだけ?」
「うん、そうだけど」
「ふーん…(他の子にプレゼント貰ったんじゃなかったっけ…)」

あのプレゼントなら返したよ、って言えばいいのに言わないのは。
君が僕のこと、まだ少し分かってないみたいだから。
僕がこんなに自然と笑えるのは、作り笑いなんてしなくても頬を緩めてしまうのは、君だけなんだってこと。
君はたぶんまだ、知らないね。



end,


‐‐‐‐‐‐‐‐
とっても遅刻なサイ誕!
他人の感情が分かるキャラ崩れなサイくんでごめんなさい(^q^)大人なサイくんもすき!
おめでとうございました!

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