さらりと撫でれば撫でるほど、その魅力に取り憑かれそうになる。
出来ればずっと、触れていたくなるほど。



Happy birthday 2012
K
akashi Hatake





雨上がりの湿った空気がやっと渇いてきた頃、霧の向こうから月の光が射している。

そろそろ交代か、思ったと同時に一つ足音が聞こえた。


「先生ー交代でーす」


ふわっと大きな口を開けて欠伸をしながらやってきた彼女を見て、仮にも女の子なんだから、と言おうとしてやめておいた。ムキになって大声で言い返してくる姿が安易に想像出来たからだ。


「お前ね、夜なんだからもうちょっと忍んでくれない?」
「あ、すいませーん」


こんな夜更けにしかも女の子に、しかも彼女に。見張り番なんて任せても大丈夫なんだろうか。
じとりと視線をやればそんな心配はよそに彼女はぐっと背伸びをして、風が気持ちいいなんて言っている。

ハァ、まぁ任務だから仕方ない。
下忍の彼女たちの最初の任務。五代目には率先して子供たちにやらせてやるよう言われている。
すぐそばには同じ班の仲間もいるしこの任務もさほど大したことのない任務。

ま、なんとかなるでしょ。

思いながら交代しようと立ち上がろうとした時、控え目にちょっとだけ引っ張られた気がした。

「ん?」

見ると隣りに座った彼女が何やら申し訳なさそうに俺の忍服を引っ張っていた。


「なに?」
「あー…えっと、カカシ先生、もう寝ます?」
「は?」
「あのー…え〜っと、これなんです…が」


もじもじと言いづらそうにして何かを取り出したと思えばそこには見覚えのある紺色で紐状の布。
そういえば、と彼女を見やればいつも頭のてっぺんできゅっと結わえてある髪がはらりと下ろしてある。


「あの〜、すみませんけど、髪結ってもらってもいいですか?」
「はぁ?!」


あまりにも予想外の頼み事に夜更けにも関わらず少し声をあげてしまった。目の前の彼女はお願いしますと手を合わせて、挙げ句に櫛まで出してくる。さらにまだ何も言っていないのに彼女は、じゃお願いしまーす、なんて言いながら後ろを向いた。

呆れた…、何で俺が。

思いながらもちゃっかり櫛を受け取ってしまったのは、月の光に照らされる彼女の髪にちょっとだけ興味が湧いてしまったから、なんて。
不覚にもそんなことを思ってしまった自分に落ち込んだ。

だけど。

かさり、と櫛を通すとさっきの"興味"が瞬く間に広がっていく。
一本一本しっかりとした束質感。櫛を通せば引っかかることなくスッと下る。その艶のある髪を思わず撫でてしまいたくなって、俺はハッと我に帰った。

何やってんのよ…、

自分の気持ち悪い行動を改めるようと気付かれないように小さく息を吐いて、それからただ上から下へと櫛を入れた。


「お前、自分で出来ないの」
「あー出来ることは出来るんですけど、下手くそみたいで」


はは、と笑う彼女を後ろから覗き見てそういえば時々ボサボサの結い方で任務に来ることがあったのを思い出す。
一生懸命苦戦しながら髪を結う彼女を想像して、少しだけ笑みがこぼれた。


「アカデミーの時は良かったんですけどねえ」
「なんで?」
「イルカ先生が毎日結ってくれましたから」
「え」


ピクリとこめかみあたりが動いた気がする。

…何考えてるのあの人…。

いや、多分イルカ先生のことだから別に他意はないのだろうけど。ていうかあってたまるか。


かさり、かさり。


そこまで考えて、櫛を入れる手を静かに止めた。

………俺の方こそ、何考えてるんだ。
ずーん、と何か重たいものが背中にのしかかるような気がした。
だいぶいい大人が、しかも自分のものでもない彼女の髪を触るイルカ先生に、軽く嫉妬している自分。

何だろう俺…疲れているのかもしれない。

そんな分かりきった言い訳を繰り返してぼーっと彼女の髪を見つめる。

ああ、やっぱり。
誘われるように触れたくなるくらい綺麗に流れる髪の束。

これがきっといけないんだ。

ゆっくりと撫でるように触れて、指でくるりと掬ってみる。

櫛を入れる一連の動作ではないその動きに僅かに彼女の肩が揺れた。
さらりとまた背中に流れる髪に問いかけるように呟いてみる。


「綺麗って言われるでしょ」
「えっ?」
「髪」
「あっ、あー!え〜っと、嬉しいことに言ってくれる人もいます」
「だよなぁ」
「きれい、ですか?」
「…………」
「なーんて!自意識過剰にも程がありますよね!あははは…」
「……いだよ」
「えっ…」

「綺麗だよ、すごく」


自分で言って恥ずかしくなったけど、月の光も手伝ってか恥ずかしさも薄れるほどそれはもう妖艶に艶めいている。
これはもう幻術の一つかもしれない。

だってほら、また触れたくなっている。


さっくりと両側の髪を掬って後ろの髪とまとめ上げる。一つの束をいつものようにてっぺんまで持っていき、きゅっと布をかけた。

「でもこの髪、綺麗なんて言われ慣れてるでしょ」


ちょっとだけおかしな雰囲気になってしまったことを反省して、少しだけ声のトーンをあげてその場を乗り切ろうと思ったのに。
当の彼女はというと、違うんだよなぁ…とかなんとか呟いている。


「カカシ先生に言われるとなんか違うなぁ…」


ぼそりと聞こえるか聞こえないかの声でそう囁く彼女の。結わえた髪から覗いた耳元がほんのりと赤に染まっているのが見えてしまった。

あーあ、これはもうお前が悪いんだよ。

きゅっと最後に念を押して結んだ布。
ゆらりと綺麗に、一束の髪が揺れたなら。
ありがとうございます、と嬉しそうに微笑む彼女の顔が見えた。
耳元と同じくらい、目尻がほんのりと染まっている。

ああ、やっぱり今日は。
髪も結えない不器用な彼女ひとりに見張り番なんて任せられないな、なんて。
都合のいい言い訳をひとつ。

それが、彼女の隣りに居れる理由。





髪につかまって




「あれぇ?先生交代しないんですか?」
「下忍には一人上忍がつくようになってるんだよ」
「そうなんですか?同期のシカマルは一人でやってたような気がしたけど、気のせいかな」
「…………気のせいだよ」





end.

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なんだこれ(笑)お題無理やりすぎますね正しくは「綺麗な髪に捕まって」です(^v^)(改ざん…)
しかしおかしいな、こんなはずじゃなかっ…すみませんこんなはずでした。無自覚なヒロインちゃんの髪に欲情する変態なカカシ先生を書きたかったんです。しかも下忍だからしっかりロリですねッ!
変態的カカシ先生大好きですー!どうか先生に幸あれ!思いっきり遅れたけどお誕生日おめでとうございましたー!


20121004/sep15,22に提出.



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