「君なんか好きじゃないよ」
まっすぐにいい放ったのに懲りもせずいつも後ろをついてきて。
「あたしはサイが好きだよ」
僕の言葉なんて聞いていないかのようにそう口にする。
嫌いだよって、はっきり伝えたってにっこり笑って、あたしは好きだよと返ってくる。もう何度そのやりとりをしただろう。
恋とか愛とか僕にはよく分からない。だからそんなものは生きていく中では不必要だと感じてしまう。だって長年仲間さえもいなかった。それでも生きてきたんだから。
恋とか愛とか、そういうものがあることも最近知った。
サクラがよくサスケという人物のことを話している。死ぬ覚悟で彼に会いたいと言っている。それも恋愛のひとつだと教えてもらった。
だけどそんな感情は、生きていく中で本当に必要なんだろうか?
僕は不思議でならないんだ。
「サイ!今日はいくつ任務があるの?」
「どうして?」
「終わるの待ってようかなって」
「待っているのは構わないけど、そんなことをしてどうなるの?」
「どうって…ただ、一緒にいたいだけだよ。サイが好きだから」
ふただびそういい言う彼女はやっぱりにっこりと笑っていた。
僕ははぁ、とため息が出る。
「一緒にいるからって僕がきみを好きになるとは限らない」
「分かんないよ?もしかしたらってこと、あるかもしれないでしょ」
「ないに等しいよ。いい加減、もう僕を好きでいるのなんてやめてくれないかな?」
ひとつの望みもないんだから。
いつも通り、まっすぐ彼女を見ていい放った。笑顔は得意だから僕だってにっこりと笑って見せた。
さあ次はなんて言ってやろうか。
きっと彼女はまた何か言い返してくるに違いない。そしてまたこう言うんだろう。
"あたしはサイが好きだから"
分かりきった返答にどう答えようかと考えたけれど、それを裏切るように彼女は小さく小さく呟いた。
「…もういい。嫌い。サイなんて嫌いだよ」
言葉と一緒にこぼれ落ちた涙が足元を濡らした。
いつものにっこり笑顔なんてものはなくて眉間にしわを寄せて唇をきゅっと噛んでいた。
…嫌い?
そうか、それは良かった。
やっと君から開放されるんだから。
そう、言ってやろうと思ったのに。
それなのに、何故だか言えなかった。キッと僕を睨んだ君の瞳。いつもの笑顔なんてひとつもなかったその表情を見た瞬間、ざわりと焦燥感みたいなものが身体中を駆け巡った。
どうしてか、分からない。
(本当に分からない?)
その瞳はすぐに逸らされて、足早に僕の横を過ぎ去っていく。
その場に残された僕は、清々した気持ちになるはずなのに何故だろう。いてもたってもいられなくて。
あんなに煩わしいと思っていた、あの笑顔。
僕の名前を呼ぶあの声と。
そして、好きだよと笑う彼女が嫌いだったはずなのに…。
それなのに。
それなのに、僕の身体は勝手に動き出していた。
泣いているのかもしれない、肩を震わせた彼女の後ろ姿を追って。
その背中に手を伸ばす僕はなにも分からないまま、彼女を抱き締めようとしていたんだ。
触れたらこの熱は消えますか
僕を身勝手に動かすこの熱の正体を君は知っていますか。
end.
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