10も離れている彼に
翻弄されっぱなしの私
いつになったら
慣れるんだろう

私の心臓に、いつまでも
雷を落とす



Happy Birthday 7.7
k
iba inuzuka




天気は快晴…とまでいかない曇りがかった空。
七夕の日ってどうしていつも晴れないんだろうなんて、子供染みたことを思いながら空を見つめる。

願い事をしなくなったのは、いつからだったかな。
大して思い出そうともしないのは、そんなことよりも私にとって七夕の日がもっと重大な日になってしまったから。


お昼の休み時間。
私の教室である保健室には珍しく誰もいない。
白衣に手を突っ込んで保健室から眺める空はより一層気だるく感じる。仕事なんてやめて早く帰りたいなぁとぼんやり思いながら、それでもバックの中にあるリボンが飾られた包みを思い出すとそわそわしてしまう自分がいた。

そんなとき、突然ガラっと開けられた扉。

そちらへ振り向けば気だるい気分も一瞬にして吹っ飛んだように心臓が跳ねた。


「よっ、先生げんき?」

ニッと白い歯を見せてその少年は保健室に入りパタリと扉を閉めた。

「どうしたの、怪我でもした?」

努めて冷静に。
それがあの日から決めたこと。
あの日、私は教員にあってはならない感情を抱いてしまった。
生徒に恋をする、なんてそんなことを。
ダメだダメだと思えば思うほど、気持ちは膨らんでしまい、もう後戻りが出来なくなってしまったのは思いもよらずその彼から告白をされた時だった。

断るという選択肢はもちろんあったれた時だった。

断るという選択肢はもちろんあったはずなのに。
その時の私はモラルとか理性という言葉を調子良く忘れてしまっていた。

そんな目の前の少年と付き合い出したのはつい最近。

と言っても私たちは普通のお付き合いなんてもちろん出来ない間柄。
最も冷静さを取り戻した私は彼が卒業するまでデートだってしないと決めた。

だけど。
誕生日くらいはお祝いしてもいいよね…。

誰に断っているのかまるで分からないけれど(多分自分に言い聞かせているだけ)、プレゼントだけは用意していたから渡してしまおうとしているのに、さっきから私の言葉と態度は気持ちとまるで正反対。


「別に怪我とかじゃねえけど」
「じゃあ用がないのね。それなら早く教室に戻りなさい」
「来たばっかですよ先生。もう少しいいだろ」
「あのねぇ、誰かが見てたらどうするの」
「普通に保健室来てサボるだけだろ?そんなのみんなやってるぜ」


先生、気にしすぎ。


そう言って、余裕そうに笑う彼が次に口にした言葉が「会いたかったんだ」なんて。
そういう会話がまずいって言ってるのに…と思いながらも、私の気持ちは密かに満たされていく。

弛む口元を必死におさえながらも、私は何気なしにバックから包みを出した。
渡すなら早い方がいい。
まるで理性が壊れる前に…というようにぶっきらぼうにプレゼントを渡した。

「はい」
「なんすか?」
「プレゼント、一応ね。今日誕生日でしょ」

提出されたノートを返すように軽く包みを渡せば、何故かしばらく沈黙が続く。
居心地が悪い…。
そう思いながら恐る恐る彼の顔を覗き見てみたら、呆然と私を見つめる彼の瞳と目があった。

と、思った矢先。
その瞳はみるみる細く弧を描いて。

「マジで?!すげー!嬉しすぎ!!」

気持ちがいいほどの笑顔。
そんな笑顔を純粋無垢に向けてなおかつ、

「サンキュー先生!」

なんて今にも抱き付いてきそうなほどの近さ。

おさえられないのは、私の方かも…。
卒業までデートもしないと決めたくせに、それどころか今すぐにでも触れたくなって。

離れなくちゃ。

咄嗟に思ったときにはもう、何もかも遅かった。


「………」
「外からも見えねえから大丈夫だろ」


彼の手に捕まって窓際のカーテンの方へと引っ張られる。
何が大丈夫なの?なんて純粋ぶったことはもう聞ける歳でもない。

「知らないよ、誰かに見られても」
「…上等」

どうして彼の前ではあんなに固く造り上げた理性も粉々に壊れてしまうんだろう。
理由はもう分かっているのだけど、それに翻弄されまくる自分が悔しくて仕方ない。

近付いてくる彼の瞳が閉じたとき、私の理性はもうすでに無に等しい。
引き寄せるように白いワイシャツを引っ張って、私は彼の愛を受け止めるんだ。



純粋ごっこに飽きただけだよ


本当は知ってる。あんたが俺に触れたがってること。



end.









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