朝だよ、おはよ。
その他愛のない言葉でも、俺にはとても必要で。
真っ暗な夜更け。
このあたりは灯りもないから、部屋の電気を消せば本当に真っ暗で。
唯一、晴れている日は窓から入る月の光。
ぼんやり霧がかったその光は真っ暗に馴染んだ目に優しくて、嫌いじゃない。
(…眠れないな)
何度も寝返りをして、だけど体は疲れているはずなのに寝付くことが出来なくて。
苛立つようにため息を吐きながら、ベッド脇のランプの灯りをつけた。
手探りでいつもの愛読書を探り当てて挟んだ栞の場所から読み始める。
だけどやっぱり体は疲れていて活字は読む気にはなれない。
半ばポイっと投げ捨てるように、本をベッド脇の小テーブルに置いた。
別に暑くて寝苦しいわけではないし、寒さで寝付けないわけでもない。
だけどこの寝付きの悪さは今日だけでもなく、そう確か、三日ほど前からだ。
(三日前……何かあったっけ?)
考えながら、疲れた瞼を閉じて。
何だったかなぁ…。
答えがはっきり分かりそうでやっぱり分からずに、小一時間もやもや考えていたら、知らずのうちに寝てしまったようで。
鳥の声が聞こえる。ぼんやり優しい月の光とは別の、突き刺すような光が瞼から感じて朝だと分かった。
うっすら、瞳を開ければその光がまだ覚めない瞳を刺激する。
(…朝か)
意識も徐々に覚めつつある。だけどこのけだるさに勝てないのはいつものこと。
もぞもぞと寝返りをうてば昨日までなかった違和感みたいなものを感じた。
鳥の声と一緒に、トントンと木の音が聞こえる。
「朝だよ、起きてー!」
少しだけ遠くの方から聞こえる声。
お馴染みな声音と言葉。
だけどすぐさまパチリと目が覚めたように飛び起きた。
「なまえ?帰ってたの?」
「うん!さっき帰ってきたの」
キッチンの方から顔を出した彼女がトントンとリズミカルに料理をしていた。
三日前、任務で出掛けていた彼女。
三日前…。
(…ああ、そうか)
ようやく分かった気がする。思った頃にキッチンから両手に料理を持った彼女の言葉で確信した。
「おはよ、カカシ。ご飯できたよ」
にっこり微笑んだ彼女は料理をテーブルにおき、まだベッドの上にいる俺のそばまで近寄ってきた。
"おはよ"という言葉とともに、満たされる気持ち。三日前からその言葉を彼女から聞くことが出来ず、知らずのうちに溜まった寂しさ。
ようやく分かった。
モヤモヤしていたのも、夜眠れないのも、きっと彼女のせい。
「なまえ、おかえり」
近寄ってきた彼女の肩を掴んで引き寄せて腕の中にしまい込んだ。
触れる髪の毛に頬ずりまでして、もっともっとと抱き寄せた。
当たり前のようにそばにいた彼女が、少しのあいだ離れただけで体に支障をきたすぐらい寂しかったなんて、知らなかった。
抱き寄せた彼女もまた、嬉しそうにすり寄りながらただいま、って囁いた。
子供じみた運命を信じている
俺がそうなってしまう原因は、きっと。
"お前だから"。
"お前だけ"。
end.
*サイト更新停止中、応援小説などくださったはっちさんへ。愛を込めて^^*
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