*学パロ




一週間ほど前からあたしのクラスに教育実習生が来た。
教師、というよりかはOL風のお姉さんみたいな感じで。すれ違ったり勉強を教えてもらったりする時、ちょっとだけ香水の香りを漂わせる。

「これから二週間、よろしく」

にっこりと、だけど大人の色気みたいなのをまといながら教壇で挨拶したあの日からもう一週間が経った。
あと一週間…。
男子からも絶大な人気だし女子とだってすぐに仲良くなって人気者。
だけどあたしは。
その一週間が苦痛だった。早く終わればいいのに、って何回も思った。

だっていつもいつもいつも。

先生の隣りにいるんだもん。先生の隣りで、笑ってるんだもん。


「はたけ先生、さっきの授業あんなので良かったでしょうか」
「うん、要点まとまってたし良かったと思うよ」
「ホントですか?!なら良かったです!はたけ先生にそう言っていただけると安心します」


今日もやっぱり隣りにいる。教育実習生だから当たり前なんだけど。
それでもやっぱり、先生を独占みたいにされると嫌で。先生も、あの人に微笑んでいるのを見るのは辛くて。

付き合ってもいないくせに、先生はあたしのものでもなんでもないのに。
そんなことを思うあたしはやっぱり子供なんだって思い知らされるけれど…。

先生もやっぱり、ああいう大人の女性がいいのかな?

なんて、愚問だよね。
こんなあたしみたいな子供より大人の女性の方が好きに決まってる。
バカだなぁあたし、ホントバカ。

教育実習生が来るまであんなに積極的に勉強を教えてもらう口実で毎日話し掛けていたけど、今はそんな余裕もなくて。
ただ、先生を遠くから見ることしか出来なくて。

自然に出るため息と一緒にじわりと下瞼が濡れたから急いで拭ったけれど、そんなことすら先生は気付いていないと思うと苦しくなった。
胸がぐっと痛くて、喉の奥が熱くてまたうっすらと涙が浮かぶ。

泣くもんか、これで泣いたら本当に子供だよ。

思いながら、唇を噛み締めた。

痛い、痛いよ。先生。
胸が、痛い。
ぎゅうぎゅうに締め付ける痛さに、あたしの心臓は大丈夫かな、なんて思ったその時。


「みょうじ」


後ろからあたしを呼ぶ愛しい声。

すぐに分かったその声の方へと目線を移せば、近付いてくるその声の主。後ろには教育実習生を残し、あたしの目の前へと進む先生にあたしは返事さえ出来なかった。
さっきまで痛かったはずの心臓が、今度はトクトクと鳴り響く。

「お前最近勉強教えてって来ないけど、何かあった?」

目を見開くあたしに先生は心配そうに首を傾げる。
久しぶりの先生との会話や視線、胸がいっぱいになって言葉が詰まる。

「あの…えっと、忙しいと思って…」

なんとか振り絞った声は小さく瞳すら合わせられなくて俯いてしまった。だけどそんなあたしの頭に突然乗せられたぬくもり。
思わず見上げれば、先生は優しく笑ってくしゃくしゃと頭を撫でた。

「そんなの気にしなくていいから。おいで」

ね、と念を押しあたしの頭から離れていく手を見送って。
その先にはいまだ優しく笑う先生がいたから、あたしも自然と笑みが零れた。

じゃ、と去って行くその背中にありがとうって小さく小さく呟いて。
だれにも聞こえないように、今度は好きだよって囁いた。
音のない声、今は届かなくてもきっといつか伝えたいから。
その日までにもっと、大人になりたい。

先生の微笑みがずっと見られるように。
そしていつかは、あたしだけを見てくれるように。
そんな日を夢見たっていいよね。
頭に残る先生の温度を感じながら、まだトクトクと走る鼓動の音を聞きながら。
放課後の鐘が鳴る廊下を歩くあたしはもう、涙は滲んでいなかった。


やさしいてのひら

(この愛しさをいつかあげたいの)



end.



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