*現パロ
ぐっと背伸びをして自販機のボタンを押した。
落ちてきた缶コーヒーを取り出して、後ろの大きな窓から広がる午後のオフィス街を眺めながらひと息ついた。
(苦…)
失敗した。新しいコーヒーが入っていたからさっそくソレを押したらとんでもなく苦かった。
甘いのが好きなのにな…なんて思いながらため息を吐いたけど出て来ちゃったもんは仕方がない。肩を下ろしてまたその苦いコーヒーに口をつけたとき、コツコツと足音が聞こえた。
「休憩?」
「……はい」
本当は声を聞かなくてもその足音で誰かわかる。だってそれは本当に聞き慣れている足音で。
案の定、聞こえた声も思っていたとおりの人。
「はたけ…先輩も、休憩ですか」
「うん、肩凝っちゃってね」
首をゆっくりと回しながら自販機に向かってボタンを押していた。
「そっちは順調?」
「なんとか。期日には間に合いそうです。はたけ先輩のところは?」
「うーん、ま、なんとかなるんじゃないの」
缶コーヒーに口をつけながら、同じように窓の外を眺めている彼をちらりと見やる。
ネクタイにスーツ。
いつもと同じなのに違って見える。
ふわりと垂れ下がった前髪から眠そうな瞳が見えた。
(あ、疲れてる)
そう思った瞬間に、ふわっと大きな欠伸をした。ネクタイやスーツなんかよりこっちの方が見慣れていてなんだか安心する。
いつもは。
こんなふうに欠伸をして涙目のまま寄りかかってきたり。
服装だってスウェットが多くて缶コーヒーじゃなくてお揃いのカップ。
だるそうに首を揉むそのゴツゴツの手は、いつもあたしを優しく抱き締めてくれる。
最愛の恋人。
いつもはそれがこの人で。
「疲れてます…ね」
「ん?いや、大丈夫だよ」
どうってことないよ、これくらい。
そう言って眉尻を下げて目を細めた。
(無理しないで…)
伝えたくて手を伸ばした瞬間に。
「でさぁ…」
「えっ、マジー?」
あたしたちの目の前を当たり前のように横切る社員たち。
そうだ、ここは会社だった。
はっとして伸ばしかけた手をひっこめた。
職場では別の部署の上司。先輩後輩。
仕事がやりにくくなったら困るから、と二人できちんと決めたのに。こういうとき、なんだかやるせない。
本当は、"はたけ先輩"なんて呼びたくないんだよ。
そんなわがままさえも、言ってしまいそうになってあたしは慌てて缶コーヒーに口をつけた。
グイッと液体を流し入れる。苦い味が喉にまで広がって苦しくなった。
「なまえ」
だけどその苦しさが一瞬でなくなった。
会社では呼ばない、あたしの名前を、いつも二人でいるときみたいに呼ばれたから。
えっ、と無意識に顔を上げると、ふいになにかを感じた頬と瞼。そして肩。
頬には掠めるように触れた唇。
瞼にはくすぐるようにカカシの前髪が触れた。
そして最後に、あたしの肩に指先を置いて。
「か、カカシっ?!」
思わず呼んでしまった名前。それを聞いたカカシが嬉しそうに笑っている。
「お前甘いのの方が好きでしょ」
言いながら、自分が持っていた缶コーヒーとあたしの手の中にある缶コーヒーを取り替えて。
いまだ頬を抑えてあたふたとしているあたしの耳元で小さく小さく囁いたんだ。
優しい指先はすべてを暴いた
(仕事終わったら、肩揉んでくれる?)
囁いたあとにいつもの優しい微笑み。
いつもと違うネクタイとスーツ姿だって、ちゃんとあたしの知ってる大好きな恋人で。
名残惜しく離れて行った肩のうえの指先。
カカシから受け取ったコーヒーはいつもあたしに触れるみたいに優しくてとても甘かった。
end.
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▼高橋さま
キリ番リクエストありがとうございました!リクエストのカカシ/現パロということでしたが、大丈夫だったでしょうか><?!不甲斐ない文章ですが愛とお礼の気持ちをたっぷり込ませていただきました☆
そしてお待たせしてすみませんでした´`
また遊びに来ていただければ幸いです!
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