どうしてかと聞かれても、きっと正確に答えられなくて。
だけどそれが確かなのだということは言える。

好き、なのだ。

…認めたくないのだけど。



「おはよう、なまえ」
「…おはようございます」

白い白衣を翻して、苗字ではなく名前を呼ぶ先生がいる。
本当はなんだかこそばゆいのに、正反対の表情をする。迷惑だ、そういいたげな表情をわざわざ作る自分は本当に可愛くなくて泣けてくる。

「名前で呼ぶのやめてください」
「どうしてよ?」
「どうしてって言われても…」

まさか名前を呼ばれるだけで顔に熱が集中して鼓動が早くなるからなんて言えるわけがなく。
口ごもって俯くあたしの耳元でまたその声が聞こえた。

「なまえ、おはよ」

鼓膜に響くその声はたちまち脳にまで行き渡って、終いには体全体を痺れさせるようで。

「や、やめてってば!」

そんな様子を絶対にバレたくなくてあたしは目を釣り上げる。
だけどそんなことをしたところでこの人はいつもと変わらずににこにこと笑っていた。

「嬉しいくせに」
「嬉しくないっ!」
「素直になりなよ」
「意味が分かりません!」

だって分かっているくせに。
そうやって知らないふりをして、なのになんでも見透かされるようで悔しいの。

「もう教室に行きます!」

いつもそう。
本当は素直になりたいのに、クスクスと微笑むばかりのカカシ先生だから本当の気持ちが分からなくて。
素直になって傷付くよりは、このままが一番いいのかもしれないなんて思ってしまったり。

(先生って何考えてるんだろ…)

分からないまま今日も逃げるようにカカシ先生から離れようと翻したとき。

「みょうじ、」

先生の口からは聞き慣れない、あたしの苗字を呼ぶもんだからとっさに振り向けば、ふわりと視界一面が白衣の色に変化した。

「せんせ…?」
「お前がダメって言うから苗字で呼んでみたけど」
「……」
「なんかやっぱり、寂しいな」

背中に回された手がぎゅっと力強くあたしを抱き締めて。
先生の匂いでいっぱいになった。
ここが学校だなんてことは、すぐにどこかへ飛んでいってしまった。
相変わらず…というか今までで一番鼓動が早いのにいまだ素直になれないあたしは「どういう意味ですか…」なんてぼそりと呟いてみれば。

「好きな奴のことは、名前で呼びたいじゃないの」

だから、名前呼ばせてよなまえ。

…そんなふうに、あたしを至極愛おしそうに呼ぶその声で。
さらりと好きだと口に出来る先生は、ずるい。
ずるいのに、あたしは胸の奥がきゅっと苦しくなって、その苦しみがとても愛おしくて、満たされて、死ぬほど嬉しくて。

その証拠と言わんばかりにじわりと瞳が潤みだした。


「好きな奴って…誰が、誰を?」
「はは、この状況でとぼける気?」
「…ううん、聞きたいだけ。カカシ先生の声で」

うずめた胸元から先生を見上げる。優しい瞳と目が合った。

「じゃあお前も聞かせてくれる?」

ぐっと返事を言う前に、引き寄せられた耳元で。先生の低めの声が甘く鼓膜を刺激した。

…好き、だよ。なまえ。

響いたその声。
たったそれだけで、あたしの体は素直になって。今度は自分から、先生の背中に手を回す。

ぎゅっとしがみつけばクスリと笑ったカカシ先生が優しく頬にキスをした。
名前を呼んで、抱き締めて、それからなにをしよう?


"じゃあお前も聞かせてくれる?"
なんて、あたしの気持ちなんてずいぶん前に分かっているくせに。
…とか、可愛くないことを言うのはやめて。
素直に、全部包み隠さず。"カカシ先生が好き"

今度は鬱陶しいくらいそう、あなたに伝えよう。


end.


▼以前、募ったアンケート解答の『ツンデレヒロインの片想い』という設定を参考にさせていただきました!
ツンデレになりきれていない上両想いでごめんなさい…!
素敵な解答ありがとうございました^^




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