※捏造満載
こつん。
扉に何かがぶつかる音がした。
「…来ちゃった」
外は雨。しっとりと濡れた彼女の髪から一滴、水滴が落ちる。
「来ちゃったじゃないでしょ」
分かるようにため息を吐けばたちまち彼女の目尻は下がった。
今にも泣きそうな、そんな顔。
「ま、とりあえず入りなよ。風邪ひくでしょ」
仕方がないから扉を開いて中へ促して。
もう一度ため息。
「…会いたくて」
震える声が背中から聞こえる。もう多分、泣いているのかもしれない。
「だからって来ちゃダメでしょーよ」
「だって…」
「明日になれば、任務で会える」
「それじゃあダメだよ」
どうして、と聞く前に俺の背中に飛び込んできた彼女。湿った髪から背中に水分が伝わってくるはずなのに、その冷たさは訪れなかった。
彼女に触れられた部分が、熱くて仕方がない。
「ダメだよ…二人じゃなきゃ意味がないの」
「なまえ、」
「みんながいちゃダメなんだもん」
「………」
「ね…そうでしょう?」
ぐっと回された細い腕に力が入って。さっきよりも近くに感じる彼女の温度がダイレクトに伝わって。…目眩すら、起こりそうになる。
「なまえ、」
ぐすりと聞こえる背中から、彼女が泣いているのだと分かるまでそう時間はかからずに。
「なまえ、」
名前を呼ぶたびに、込み上げてくる思いを必死に我慢していたのに。
「会いたかったの、触りたかった。こうやってぎゅっとしたかった」
「……!」
「好きなのは!…消えないの。どうやっても」
消えないんだよ、
ぽつり。呟いただけじゃなく。
俺の前に回り込んで必死にしがみつきながら涙目で訴える彼女を、そのまま放っておくなんてことが出来ないのは。
俺も同じ気持ちだから。
そんなことは、とっくの昔に気付いているんだね、お前は。
「それでも二人になれば、どうなるか分かるだろ」
「……っ!」
…………だからダメだと言ったんだ。
抑えきれるワケがないんだ。二人になれば、こうなることは分かり切っていることなのに。
「…ん」
「なまえ…っ」
それはそれは強引な口付けで。
止まらなくて、止められなくて。
お前に触れる時間一秒たりとも無駄にしたくなくて。
"イケナイ"という言葉と"モット"という言葉が交互に現れてしまう。
それなのにお前は、その小さな唇で、頬に涙を伝わせながら。
『もっと』ってせがむんだ。
「お前…分かってるの?」
「分かってるよ。ちゃんとね」
「バカだね。大バカ」
「それでもいいよ。そばにいれるなら」
大好きだよ、
なんて。どこまで俺の心を根こそぎ持って行くのかと。思う方がよっぽど大バカかと嘲笑いながら。
もう無理だ。
我慢ならない。
お前が悪いんだよ。
なにかの枷が外れたように、力いっぱい抱き締めて。口付けて。
もうどこにも、行かせない。
俺のものになればいい。
なにかが狂って。
なにかが壊れた。
それでも俺は、正しいと。これでいいんだと確かめるように、彼女を愛した。
耳元で小さく小さく囁いた"お兄ちゃん"という言葉は、まるで聞こえないかのように。
いしあわせの代償は
愛してしまったのは妹だった。
end.
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