「木の葉を潰す」
そう言った彼の目は、見たことのないほどの暗闇で。漆黒なんて色はまだまだ明るい部類に思えるほど。
「サスケ」
「……」
彼の名を呼んでも、返事をしない。きっと、あたしの声なんて聞こえていないんだ。
「サスケ〜、なまえが呼んでるよ?」
水月が呼んでくれてやっと、サスケはあたしの方を振り返る。
どうせ、大した用でもないくせに。
そんな表情をしながら。
「あの…さ、次は誰を殺すの?」
恐る恐る、訪ねて後悔した。その黒い瞳が鋭さを増したから。
「お前に言う必要はない」
言い放ちまた前を見据える。
完全にあたしはその瞳には入れなくて。きっと心にすら、居なくて。
あたしの居ないその背中を眺めながら、これからどうしようと考える。
もちろん、離れようとは思っていない。離れるくらいなら死んだ方がマシ。だけど、このままでいればいつか壊れる。あたしが壊れる。死んだも同じになりそうで。
それならばいっそ―――。
いっそ、すべて壊れればいいのに。世界中すべてが壊れればいいのに。
そうすれば死ぬときだって一緒にいれるのに。
「ちゃんと歩け」
「…え?」
「煩わしい事をさせるな」
がっしりと掴まれてあたしはハッとした。
フラついてるけど大丈夫〜?と水月の声がした。
目の前にはあの真っ黒い瞳。
だけどあたしの腕を掴むサスケの手はあたたかくて、優しい。
「サスケ」
「………」
「この世が憎い?」
「………」
「嫌い?」
「………」
「あたしは、好きだよ」
「サスケが産まれたこの世界が、あたしは好きだよ」
少しだけ、黒い瞳が見開いて。またすぐに逸らされる。
ひゅ〜と、口笛を吹く水月の肩口を笑いながら小突いて。
ふと、逸らされた瞳を見れば相変わらず眉間にシワを寄せたサスケがそこにいて。
「ふざけるな、行くぞ」
無愛想にまたあたしの前を歩き出す。
その背中には、未だ憎悪は溢れているけれど。
さっきまで強く握られた拳が、ふわり。解かれていて。
揺れ靡く黒髪がキラキラと日に当たる。
「なまえもモノズキだね〜」
「そう?」
「うん、相当」
「そんなことないよ」
だってあんなに優しい温度。
憎しみや悲しみで消えかけているけれど、根本は消えない。
そんなサスケの優しさをあたしは守りたいと思うから。
「水月」「んー?」
「サスケ、死なせないでね」
「えー?」
「死なせないで、絶対」
あたしは死んでも、サスケは生きていて欲しいんだ。
そう水月に言ったら、呆れ笑いをして、だけど分かったよと約束をしてくれた。
そばにいたい。
離れたくない。
壊れればいいと思ったけど、やっぱりそれはダメ。
一緒に死んだってうれしくない。
それならばあたしは、その手に。
その手に壊されたい
いつか死ななきゃならなくなったら。
あたしが邪魔になったら。
あなたのためだったら。
それが、あたしの本望。
end.
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