「こうしてると…帰りにくいね」
ベッドを背もたれがわりにして、ふたりで床にぺたりと座った。
殺風景の俺の部屋は、窓から雨が降っているというのに気まぐれに出てきた月の光がよく入るからベッドの上の小さなライトだけで明るさは十分。
しと、しと、と降る雨音だけが部屋に響き渡る。
隣りのぬくもりは、心地よい温度だった。
「せんせい、明日は何時?」
「正午くらいかな」
「じゃあゆっくりだね。あたしは7時くらいからなんだ」
「大丈夫なの?もう日付変わってるよ」
「うん…起きれないかも。でも、」
"離れたくないな"
ぼそりと呟いて、繋がられた手をきつく握った。
きっとこういう時は、早く帰れと促すのが大人というもので。もちろん教え子である彼女にはそう言ってやらなければいけないんだけれど。
「じゃああと10分だけよ」
なんて言ってしまう自分に呆れてしまった。
だけどそれを聞いた彼女が俺の胸に嬉しそうにすり寄ってくるもんだから、帰らせるどころか離すもんかとぐっと引き寄せた。
「せんせー、頭撫でて?」
「…こう?」
「うん、すごく幸せー」
言われた通りに撫でてやれば、たちまち幸せそうに頬を緩める彼女が見えて、とっさにその顔を持ち上げてその小さな唇に自分のを押し付けた。
驚いたように見開いた瞳が、ゆっくりとまた閉じられる。
「…ん」
はじめは軽く、だんだん深くなっていく。
小さな唇で必死になぞられると、自分でも分かるほど熱い息が自然と溢れる。
「これは…まずいかも」
「あっ、せんせ…」
唇から首もとに。
移動すればするほど、もっと欲しくなる。
合間にまた唇に戻ってみても、より一層もっともっと欲しくなる一方で。
「ごめん、止まらない」
相当情けない顔になっていると自分でも分かってしまうあたり、恥ずかしさでいっぱいになったけれど、そんな俺に優しく微笑んだ彼女は、ぼそり小さく囁いた。
「…やめないで」
俺の頬を両手で引き寄せて、触れるか触れないかの口付けをして。
「俺ってダメな上司だよネ」
引き寄せて抱き締めてもう離れられないくらい。
力なく笑ってそう言えば、クスクスと聞こえたその小さな唇をまた塞いでいく。
今度ははじめから深く深く。もう離さないと、伝えるかのように。
雨雲がうっすらと広がっていた空は、気が付けばもう星空に変わっていて。
雨音のかわりにコチコチと鳴り響く時計の針はもちろん、10分なんていう短すぎる時間はあっという間に過ぎていた。
ただただ愛おしいばかり
「泊まって行きなよ」
だって離れたくないんだ、なんて。
目尻を下げて言うカカシ先生の息は思った以上に熱くて。
(離れたくないのは、あたしのほうなのに)
いつだってときめく心を刺激する先生の言動に、あたしはいつも目眩すら覚えるんだ。
end.
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