※現パロ
「二次会行く人ー?」
白い息が熱っぽいのは、少しのお酒のせいで。
息だけじゃなく体中、ぽかぽかと心地良く熱が上がっている。
そんな中、幹事の奈良君がめんどくせえとため息を吐きながら二次会に行くメンバーを数えていた。
「おーいシカマルー!タクシー来たぜー!」
「あー、乗れる奴から乗ってってくれ」
「シカちんー!オレ、リムジンがいいってばよー!」
「こらナルト!シカマルは幹事で忙しいんだから絡まない!」
「さ、サクラちゃん…いてぇ……」
ガヤガヤする道端で、ぼんやりと同僚のふざけたやり取りを見て一緒にいたヒナタと声を出して笑った。スーツを来ているのに中身は子供と変わらない。
そんなことを思っていたら、ふと黄色い声が聞こえる。
「はたけ先輩ー!先輩も二次会行くんでしょ?」
「せっかくだから行きましょうよ〜!私飲み会すごく楽しみにしてたんですよ〜」
黄色い声は、途端に媚びるような声に変わった。3、4人に囲まれたその人は困ったように笑っている。
『はたけ先輩』。そう分かったのはついこの間で、自分の課の上司ということもつい最近知った。
「相変わらず、人気だねはたけ先輩」
隣りのヒナタが心配そうに呟いた。あたしはその先輩の様子を眺めながら、うんとだけ頷いた。
「えっと、あの…大丈夫?」
ヒナタがさらに心配そうに覗く。
「全然平気!もう慣れた!」
とにこりと笑ってみせればヒナタもにこりと優しく笑った。
あの人気者を好きと気付いてしまったのは、上司と分かるだいぶ前だった。所謂、一目惚れというやつで。だけど人一倍消極的なあたしは、話したことがないどころかきっと名前すら覚えてもらっていない。
「はたけ先輩のこと、こんなに近くで見れるなんて〜!」
「ほんと、かっこいいですよね!」
止まない女の人たちの声。微かに嫉妬心が芽生えたけど、芽生えたところでただ惨めに思うだけだった。
(あたしも、少しくらい話したいなぁ…)
吐き出したため息にヒナタは気付いていない。
きっと今日も話したいなぁ、と思うだけで終わってしまうんだ。先が分かっているのに、行動に移せない自分に自己嫌悪。
「誰かー!もう一人乗れるってばよー!」
数メートル離れたところからナルトの声が聞こえた。どうやらタクシーに乗り込んだナルト達だったけれど一人分空いているようで。あたしはすかさずヒナタの背中を押す。
「ほら!行っといで!」
「あ…で、でも…」
「話するチャンスじゃん!あたしも後から行くからさ!」
ヒナタが返事を渋っている間にナルトへと一声かける。
「ナルトー!ヒナタ乗せてやってー!」
「おお!いいってばよ!」
乗れ乗れ、と手招きをするナルトを見て頬を染めるヒナタ。最後にもう一度背中を押してやればヒナタは小さくありがとうと言ってタクシーに乗り込んで行った。
「悪ィ、こっちも乗れねえ」
途切れることなく後ろからやってきたタクシーの窓から申し訳なさそうに顔を出したシカマルがそう言った。
「いいよいいよ、適当に拾って向かうから」
「おー悪ィな」
「そんかわりあとで自腹切った分ちょうだいよ」
ビシッと言えば苦笑いしたシカマルとそのシカマルの表情を見て大笑いしているいのの声。
そのままタクシーは前進して走り去ってしまう。少し後ろの方にもう一台いるタクシーへと向かおうとした瞬間。
あの銀色に靡く髪が見えた。
先ほどの女の人たちとタクシーへ乗り込もうとしている先輩の姿。
ぼんやりと見詰めていたらたちまちそのタクシーは動き目の前を通過して行った。
通過する際のこと、無意識に目で追ってしまった先輩の横顔。一瞬ちらりと目が合ったような気がした。
…気がしたのだけど、それも勘違いかもしれなくて。一人ぽつんとその場に残されたあたしはなんだか泣いてしまいそうな気持ちになった。
(帰ろうかな…)
時計を見れば短い針はまだ10を指すか指さないか。電車もまだあるし明日も仕事だ。
辺りにはタクシーも走っていない。今から歩いて二次会の場所に行く気にもなれなかった。
歩き出した方向は、近くの駅の方向で。
コートのポケットに手を入れてあまりの寒さに首を竦める。
それもそのはず。
もう3月だというのに季節はずれの雪が空からちらついてきた。足早に角を曲がったその時のこと。
降り出した小さな粉雪の中、見覚えのありすぎる人物が向かいから歩いてくるのが見える。
視力が良くないあたしだけどその綺麗な銀色を見間違えるわけがなく。
「………」
声が出ず、ただ立ち尽くしていた。
「帰るの?」
突然問い掛けられ訳が分からず後ろを振り向いたりしていたら、目の前まできた先輩はなまえさんに言ったんだけど…と頬を掻く。
「あ、あたしですか?!」
名前を知っていてくれた感動と、何故タクシーに乗っていたはずなのにこんな所にいるのかという疑問と。色んなものが体中を駆け巡る。
だけど、うん、と頷いた先輩にドキリと鼓動が鳴ったのは言うまでもなく。
「タクシー…ないから…帰ろうかと…」
途切れ途切れでしか言えないあたしは未だに脳は停止中に近い。それなのに先輩は、
「じゃあ一緒に歩いて行こうか」
ついにあたしの脳を停止させるようなことを言った。
動かないあたし。
大丈夫?と首を傾げる先輩。
その時雪が鼻の上に落ちたけど、そんなことも気付かずに。
さむいさむい温度の中、氷のように固まった体を動かしてくれたのは、動かないなら引っ張って行くよ、なんて言いながらあたしの手を強引に取った先輩の右手。
知ってるよ、好きだから
顔も名前も、目線の先も。
end.
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