しとしとと降る雨の音が、一部だけ大きく聞こえると思ったら、そこの窓が開いていた。
「ここ、教室ですよ」
教室に似つかわしくない匂いは窓が開いている理由を物語っていて。
そこに佇む彼は、大して驚いていないくせに、うおっ、とわざとらしく驚いた。
「おーお前か。ちょっと見逃せや」
「知ってる?先生。ここの教室、校長室真ん前」
今度は本当に驚いたみたいで、口元に持って行った煙草をそのまま静かに携帯灰皿でもみ消した。
「お前それ早く言えよ」
「知ってるかと思って」
「知らねえよ」
しとしとと雨の降る景色を、ぼうっと眺めながめながらの会話。
煙草を吸っていなくてもその場を動かない先生。
嬉しくなった。
「先生ってさ、先生っぽくないよね」
「そうか?俺は教師らしい方じゃねえか?他の奴ら有り得ねえだろ」
「先生も十分変だよ」
「変ってなんだよお前」
はははって笑ったら、何笑ってんだよって頬を抓られる。
痛いと文句を言ったら、今度は先生がぶはっと笑って変な顔ー、とからかった。
「はーなーしーてー」
なんて言いながらも、そのあったかい手にドキドキしていることなんて先生は知らなくて。
気付いてもいなくて。
離さないで。もっと触れてて。
なんて言ったら、先生はどう思うんだろ?
しとしとと降っていた雨は、もう止んでいた。
「先生ーいたいー。こんな顔になっちゃう」
「安心しろ、あんま変わんねえ」
いまだ離されないその手を握ってしまいたいと思った。
ここ、越えてもいいですか
end.