*幼なじみ






カンカン…。
乾いた金目の音が響く。辺りはお焼香の匂いがして。
揺らめく提灯の光のそばで、黒い額縁の中、優しそうな笑顔で彼のお父さんがいた。

大勢の人が静かに飲み食いをしている中、彼の屋敷にしては小さな部屋にひとり。
佇む黒い袴の彼の背中が、とても悲しそうだった。

「全ちゃん」

声をかければピクリと動く体。振り向いた彼の頬には涙の跡が筋のように通っていた。

「…お前か」
「ご飯、食べないの?」
「あとでいい」

呟いた彼の隣りにすとんと座る。
彼はあたしの方を見ないでぼんやりどこかを眺めていた。

「全ちゃん、大丈夫…?」

見ていられなくて聞いてしまって後悔した。
いつもは前髪で見えない瞳が、きらりと少しだけ光って。

「お前、あっち行ってろ」

顔を背けたその姿に胸がぐっと苦しくなった。
彼の涙がこんなにも苦しいなんて。ぎゅっと握った拳が膝の上で震えてしまう。

「隣りにいちゃ、だめ?」

声までも震えてしまいそうになったけどぐっと堪えて彼を見やった。

「全ちゃん、こっち向いてよ」

呟けば、舌打ちと一緒に潤んだ瞳がこちらを覗いて。

「こういう時はそっとしとけよ、馬鹿野郎」

恥ずかしいだろうが、なんて言いながら。
彼の頬を涙が伝う。
思わずそれに手を伸ばせば、生暖かい温度があたしの手に伝わった。

「一人で泣かないで。あたしも一緒に泣いてあげるんだから」

恨めしそうにあたしを見やっていた瞳が、今度はあたしの手に縋るようにして瞼を閉じた。

「ワケ分かんね。馬鹿じゃねえの」

そう言いながら、ぼすんと頭があたしの左の肩に下りて。

「…一緒に泣いてくれんだろ?」

ぼそりと耳元で甘えるように聞こえた声がとても愛しくて。
あたしは彼よりも嗚咽を漏らし、泣きながら彼の頭を抱き締めた。

濡れた頬に、触れる。

(笑う時も泣く時も、全部一緒にいたいから。
お願いだから隣りにいさせて)



end.



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